2017年4月18日、中野区と練馬区の区界に「カフェ潮の路」をオープンしてから、早いもので2か月が無事に経過しました。

船出はしたものの、カフェ運営の経験がないコーディネーターを心配し、休日返上で毎週駆けつけてくれたモモガルテンの店長や、一緒に楽しんでくれる頼もしいボランティアスタッフ達のおかげで、カフェ潮の路は数々のピンチを乗り越え、海原を航海中でございます。

※カフェ潮の路の基本情報はこちら。

私たちが何より幸運だったのは、これ以上ないほどにご近所さんに恵まれたことです。

カフェ開店日には人の出入りが多くなり、賑やかです。さぞかしご迷惑をお掛けしているとは思うのですが、皆さん温かく見守って下さり、それだけでなく、私たちが焙煎し、販売するコーヒーを熱心に購入してくださるお得意さんになってくださっています。ありがたい限りです。私たちは幸運です。

カフェのコンセプトを決定づけた相模原障害者施設殺傷事件

 

私たちが「カフェ潮の路」をオープンするにあたって、一番の目標に掲げたのは、「いろんな人が混ざる場所にしたい」ということでした。その方向性を決定づけたのは、相模原で起きた忌まわしい事件。あの事件は多くの人の心に癒えることのない深い、深い傷を残しましたが、私も例外ではありませんでした。ホームレス支援という仕事をしている私にとって、この事件は他人事とは思えないおぞましい事件でした。犯人の言い分に共感する意見や、きっぱりと否定しきれない一部の世論にも衝撃を覚えました。

その時、私は、支援対象者を守ったり、マジョリティに配慮や遠慮をしたりすることの限界や、困難を抱える人々を見えにくい状態にすることの弊害を見たような気がしました。自分と異なる存在への無理解が進んでしまうことで、社会の偏見、差別を助長されると考えたのです。

特定の人の居場所ではなく、誰もが混ざる場所を目指す

 

特定の困難を抱える人たちの安心できる場も必要ですが、私たちは誰もが参加しながらも安全な場所を作ってみたいと考えました。多種多様な人々が混ざって共存するのが健全な社会。それを自分達の足元から実現してみたいと思いました。

他者を受け入れ、共存するには、とにもかくにも知ることが第一歩。知るためには、とにかく接近することが一番です。交流するまではしなくても、同じ場に居合わせているうちに、人は自分とは境遇や考え方が異なる人に慣れてくると思うのです。「慣れ」は偏見を薄めると私は考えています。

2か月が経過しましたが、今のところ、ご近所さんなどのお客様が5割、福祉関係や支援団体やつくろい東京ファンドの利用者さんなどが5割といったところでしょうか。

近くの会社に勤務する方々や、職場の制服を着た女性がやってきてランチを召し上がるその同じテーブルに、ほんの数か月前まで10年間も路上生活をしていた方が、同じランチを召し上がる。その制服の女性がもくもくと食事をする間に、メニューの横に置いてある「お福わけ券」の説明を読み、会計時に「あの…あそこに書いてある券を一枚買いたいのですが」と消え入りそうな声で言い、裏面のひとこと欄に何を書こうかと斜め上を見つめながら知らない誰かに向ける言葉を探している。階下では、つくろい東京ファンドの入所者さんや卒業生が将棋の対戦を囲んでいる、その人垣の中に商店街のおじさんが混じっている。本来なら当たり前のそんな光景に、いちいち感激しながらカフェを運営しています。

「混ざる」を可能にする「お福わけ券」

 

職場の制服姿の女性が購入してくださった「お福わけ券」。西洋諸国ではPay it forward(ペイ・イット・フォワード)と呼ばれ、カフェに来られたお客様が「次に来る誰か」のためにランチ代やコーヒー代を先払いするという仕組みです。
すでに700円券は136枚、200円券は56枚もご購入いただき、カフェ営業日にはこの券でお腹を満たす人たちがいます。

券を購入して下さった方にも、券を利用する方にも、裏面に一言メッセージを書いていただいています。払う側と受け取る側で立場が異なるのにメッセージをお願いすることに賛否両論あるのは当然です。しかし、両者を具体的につなげたい。お金を支払った側が、使った側の人をより知りたいと思ってくれないだろうかと考えて導入してみました。

※「お福わけ券」の裏面の画像は、つくろい東京ファンドのFacebookページで公開しています。

この券をよく利用する一人は、購入してくれた方に喜んでもらいたいと思ったのか、自作の短歌を書いたり、大昔のCMのセリフを書いたりするようになりました。あの人にそんな一面があったのかと私たちも驚き、楽しんでいます。

「お福わけ券」のシステム導入も初めてですので、課題もありますし、私たちも試行錯誤しております。しかし、仕事があろうとなかろうと、「困っている時はお互いさま」そして、自分に余裕がある時には無理ない程度に他者を支え、自分が困ったら支えられる、そんな循環が社会全体に広がらないかと夢想しています。

このたび、オンラインショップでも「お福わけ券」が購入できるようになりましたので、ぜひご活用ください。以下の画像をクリックしてください。

今後がまったく未知数

 

今のところ、多様なお客様にご利用いただいているカフェ潮の路ですが、さてさて、今後はどうなるでしょうか。人の集まり(社会)というものは、社会状況や場の小さな変化によっても姿を変えるものです。

このまま多様な人達が同じスペースを平和に共有し続けるのか、はたまた気が付けば似た人達の居場所になってしまうのか。些細な変化にも敏感になりながら、舵を取らなくてはいけないと痛感していますが、まずは安全安心で美味しい料理を安く提供できるよう、日々精進いたします。今後とも、どうぞご注目くださいませ。(小林美穂子)