華雪さんとワークショップを行うのは2017年12月に「書のワークショップ」で、皆で「足」という字を書いて以来です。
今年は篆刻(てんこく)に挑戦です。世界に一つだけの自分のハンコを作ります。

私がカフェで準備をしていると、先生の華雪さんが到着するより早く、カフェの常連さん達が続々と集まり、たちまち賑やかに。

ハンコを身分証明として今も使っているのは、世界でも日本のみ

まずは華雪さんによる篆刻講座。
漢字の成り立ちから、古印がどんな理由でどのように生まれたか、その歴史や形式の変遷を優しく解説してくださいます。紙の無い時代に、最初に文字が書かれたのは骨や亀の甲羅であることを知ると、みな「へぇ~」という顔をしていました。
印象的だったのは、亀の甲羅を使った「亀甲占い」というものが元々中国で広く行われていたものであったのが時代とともに廃れ、現在その風習が唯一残っているのが日本であるということ。天皇の代替わりに伴う皇室行事「大嘗祭」で「亀卜(きぼく)」という占いが執り行われますが、それこそが大陸から伝わった中国古来の風習なのだそうです。ハンコも同様で、現在ハンコを身分証明に使っているのは、世界でも日本のみだとか。そういえば、ほかのどの国でも見たことがありません。

漢字をはじめとする私達日本人の文化は、中国や韓国の影響抜きには何も語れないとつくづく感じ、隣国に益々親近感がわきました。小一時間の講習を、みなさんとても真面目に受講していました。

この日、集まった参加者は、カフェの常連さんやそのお友達、地域の方々、そして、10歳の子どもなど11人。兼ねてからのコーヒーのお客様が、華雪さんの篆刻ワークショップを受けたいとはるばる山形から日帰りで来てくださったのも嬉しかったです(スペースの都合上、ワークショップの告知はカフェのお客さんなど関係者のみに限定させていただきました)。

ボヤく男性陣、笑う女性陣

それぞれが彫りたい文字の意味を学び、さぁ、いよいよ自分で選んだ石に下書きした名前を彫っていく作業です。
こんな表情を見たことがない、というくらいに真剣な面持ちで皆さん小さな石の表面を削ります。

少し彫っては、隣の人の手元を覗き込んで確認したり、お互いに「ここが難しい」と言い合ったりしていましたが、ひときわ賑やかだったのが男性陣が集まった二番テーブルです。

説明を聞く前から先走って彫り始めてしまう人や、繊細な作業に戦意喪失し、いきなり自分の名前とは無関係なシンプルな字に変えようとして、「シンプルな字の方がバランスが難しいですよ」と先生にさらりと言われて断念したり、「ダメだ、できない」とホットサンドをやけ食いみたいに頬張る人がいたり、「できないのが当たり前だよ、俺たち今日初めてやってんだもの。先生は30年やってんだからさぁー」と言い訳がましい開き直りをする人がいたりして、そんな男性陣を、三番テーブルの女性たちがケラケラとさも可笑しそうに笑っていました。

子どもに先を越され、大人に火が付く

ものの10分もしないうちに、最年少10歳の子が「できたー!!!」と叫びながら先生のもとへ駆けて行きました。
その瞬間、賑やかにボヤいていた大人たちの顔に緊張と焦りの色が走りました。ようやくみんな一生懸命に石と向き合い、次々と完成する人が先生のもとへ石を見せに列を作りました。

「手が震えてしまうからうまくできない」と一番苦戦していた人の作品を華雪先生が見るや、うーんどうかなという表情になりました。朱肉をたっぷりと含ませて、一か八かで押してみると…
「おお、奇跡的にできてる!!」
呆然と立っている作者そっちのけで周囲が大喜びすると、つられて当人も頭を掻いて照れ笑い。

字が表すもの

書も篆刻も、不思議なくらいにその人が滲み出るものです。
決して完成度は高くありませんが、凛と厳しく生きてきた人、不器用に生きた人、真面目な人柄、おおらかさ、繊細さ…等々、不思議とその人が滲み出た、玄人が狙っても絶対に出せない味わい深い作品です。ずっと見ていたくなるような「その人」の文字です。

本当に賑やかで素敵な時間でした。すぐに「次はいつやるの?」と、みんなにせっつかれるに違いないのです。
私達はこのような体験型文化イベントを、これからも継続して開催したいと考えています。ご支援賜りますようお願い申し上げます。(文責 小林美穂子)

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