【2022年9月11日追記】この記事は9月4日にアップしたものですが、その後の東京新聞報道で文京区・豊島区等がデータを修正したことが明らかになりました。そのため、扶養照会実施率の一覧表を修正しています。詳しくは下記の記事をご覧ください。

生活保護申請の最大のハードルとなってきた扶養照会の運用が昨年春に改善されましたが、東京新聞が東京都内の28自治体(23区と人口20万人以上の5市)にアンケート調査を実施したところ、2021年度に生活保護を新規に決定した世帯のうち、扶養照会を実施した割合が自治体により大きく異なることが判明しました。

生活保護の大きな壁「扶養照会」 都内28市区、実施10%弱~90%強と格差 「ばらつくなら廃止を」:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/199879

生活保護申請の「扶養照会」なぜ格差 「原則実施」が変わらないから 制度の前提に問題:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/199898

新宿区、中野区、足立区の3区が扶養照会の実施率を1割以下に抑えているのに対し、文京区、港区、杉並区、豊島区は7~9割も実施しています(下記の表は修正前のものです)。

同じ東京都内でもどこの自治体に申請するかによって大きな地域間格差が存在しているわけですが、これは「格差があるから平準化すればよい」という問題ではありません。厚生労働省は昨年春、扶養照会を改善する通知を出しましたが、この通知に従っている自治体と通知を無視している自治体の間で格差が生じているからです。

コロナ禍で貧困が拡大する中、厚生労働省は2020年12月から「生活保護の申請は国民の権利です」というキャンペーンを始めました。しかし、親族に知られてしまうことが心理的なハードルとなり、制度を利用できない人がいる、という批判が高まったことを受けて、2021年春、厚生労働省は扶養照会の運用を改善する通知を2度にわたって出しました。

生活保護の扶養照会の運用が改善されました!照会を止めるツール(申請者用、親族用)を公開しています。
https://tsukuroi.tokyo/2021/04/20/1551/

この通知により、生活保護を申請する人が親族への照会を拒む場合は、申請者本人の意思が尊重されるべきこと、照会の範囲も「扶養義務の履行が期待できる」と判断される人(仕送りをしてくれる可能性が高い人)に限定する、ということが明確になりました。

また、東京都は以前から「要保護者が扶養照会を拒否する場合は、理由を確認し、照会を一旦保留」するという方針を示しており、杉並区で扶養照会を強行した事案が問題化した今年2月には、この点について改めて念を押す内容の通知も出しています。

「親族からの援助は生活保護の要件でも前提でもない」~杉並区に当たり前のことを認めさせるまでの攻防の記録
https://tsukuroi.tokyo/2022/04/03/1700/

仕送りが期待できない親族には照会しない、本人が拒否すれば保留する、という厚生労働省や東京都の示している方針に従えば、生活保護を申請する世帯のほとんど全てにおいて、扶養照会を実施する必要がないということになります。
実施率が1割以下となっている新宿区、中野区、足立区は全体からすると少数派ですが、支援を必要としている人に制度を権利として利用してもらう、という国や都の方針に従っているだけとも言えます。

その一方で、文京区、豊島区、杉並区、港区の4区は生活保護決定世帯の7〜9割の割合で扶養照会を実施しており、他と比べても実施率が際立って高いことがわかります。
これら4区の福祉事務所は利用者の目線に立つことを拒み、「厚生労働省や東京都の方針など知らない」と言わんばかりに、昔ながらのやり方で親族に郵便を送り続けているのでしょう。

その背景としては、「家族はお互い助け合うべき」といった伝統的な家族観に固執している職員が幹部にいる、正規雇用の職員数が不足していて、なるべく利用者を増やしたくないという意識が職場に蔓延してしまっている、個々の通知を読み込む時間や研修をする時間も確保できていないため、知識がアップデートできていない等の理由が考えられますが、いずれも自浄作用は見込めず、外部からの働きかけがないと改善が難しい状況だと思われます。

扶養照会の実施率が高い自治体にお住まいの方には、地元の福祉事務所が制度を住民の立場に立って運用するよう、区のホームページから意見を送る、区議会議員に働きかける等のアクションをしていただくよう、お願いいたします。

また、新聞のアンケートに答えていない区や市の中にも、運用を改善していない自治体がある可能性があります。これらの自治体にも情報公開を求めていただくようお願いいたします。

厚生労働省は、照会をしなくてもよい範囲を広げれば、福祉事務所は困窮している住民の立場に立ち、自発的に親族への照会数を減らすであろうと考えていたのでしょう。ある意味、福祉事務所に対する「性善説」に立っていたわけです。
しかし、実際には照会の数を減らした自治体は少数派で、「しなくてもよい」はずの親族照会をわざわざ手間暇かけて続けている自治体の方が多いことがわかってきました。

厚生労働省は各自治体に対する「性善説」を捨て、自治体の裁量に任せるのではなく、扶養照会自体を撤廃するための議論を始めるべきだと考えます。
制度を必要としている人にとって、自分の意思が尊重されず、一方的に親族に連絡されてしまうのであれば、その制度の利用は「権利」であると言うことはできません。
「生活保護は権利」を実質化するため、私たちは更なる見直しを求めます。ぜひご協力をお願いいたします。

※そもそも「扶養照会」とは…

「扶養照会」とは、福祉事務所が生活保護を申請した人の親族に「援助が可能かどうか」と問い合わせることです。照会は通常、二親等以内の親族(親・子・きょうだい・祖父母・孫)に対して、援助の可否を問う手紙を郵送することで実施され、過去におじ・おばから援助を受けていた等、特別な事情がある場合は三親等の親族に問い合わせが行くこともあります。

扶養照会に関する法的な規定は存在せず、厚生労働省の通知に基づいて実施されています。
生活保護法の4条2項は「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」という規定がありますが、これは親族が実際に金銭的な援助をした場合、その金額を収入として取り扱い、保護費を減額するということを意味しているにすぎません。
2021年1月28日の参議院予算委員会でも、田村憲久厚生労働大臣が小池晃議員の質問に対して、扶養照会は「義務ではない」ことを認めています。