生活保護利用の最大のハードルとなっている扶養照会の運用が一部改善されて、2年が経ちました。
私たちは、厚生労働省が運用改善の通知を発出した後も、不適切な運用を続けている自治体が少なくないことを問題視し、国や自治体に更なる見直しを求めてきました。

この間の状況について、スタッフが書いた記事もありますので、よろしければ、ご一読ください。

「生活保護は権利」を実質的に確立する仕組みづくりを~コロナ禍での貧困拡大に、扶養照会の根本的見直しが急務だ(稲葉剛)

「扶養照会は原則しなければならない」は本当か? 福祉事務所の言い分を検証する(小林美穂子)

今年3月、扶養照会をめぐる問題に関して、朝日新聞が特集を組み、5回にわたる連載記事を掲載しました。
取材チームは、全国74自治体の扶養照会の運用実績も調査。調査報道では、「1千人への照会で、仕送りにつながったのは7人に満たない」ことや、照会率の自治体間格差が広がっていること(最小は中野区の5.5%。最大は佐賀市の78・0%。格差は約14倍)が明らかになりました。

一連の報道には、つくろい東京ファンドも取材に協力しています。全文を読むのに有料登録が必要な記事が多いのですが、ぜひご参考にしてください。

【全5回】家族に知られたくなかった… 生活保護と「扶養照会」

生活保護の扶養照会、仕送りは0.7% 申請の妨げ?識者は批判:朝日新聞デジタル

(時時刻刻)「知られたくない」申請の壁 生活保護の扶養照会:朝日新聞デジタル

生活保護の親族への「照会率」、自治体で10倍超の差 朝日新聞調査:朝日新聞デジタル

生活保護の扶養照会、慎重になる自治体も 「無理にしても関係悪化」:朝日新聞デジタル

(取材考記)生活保護申請 扶養照会、国が実効性検証を 贄川俊:朝日新聞デジタル

照会率が最も低い中野区は取材に対して、朝日新聞の取材に対して「本人が望まないのなら、無理に照会しない。広くやろうとするときりがないし反発もある」と説明。足立区も「無理に照会をしても受給者との関係を悪くするだけ。同意が得られるかどうか、急がずに親族との関係の変化を見ていく」と述べています。

中野区や足立区のように利用者目線に立った運用が全ての自治体でなされるよう、引き続き、働きかけを続けるとともに、厚生労働省に対しては更なる見直しに向けた議論を開始することを求めていきます。

今年2月28日、岸田文雄首相は扶養照会の「副作用の大きさ」と自治体間格差の問題を指摘した森山浩行議員(立憲民主党)の質問に対して、「自治体の運用について絶えず現実に合っているのか等を検討する中で、扶養照会のありようについて関係者の中で考えていきたい」と答弁しました(衆議院予算委員会・総括質疑)。

政府はこの首相答弁に沿って、具体的な検討作業を進めるべきです。私たちは、厚生労働省の社会保障審議会の中に扶養照会のあり方を検討する専門部会を設置すること、全国の全ての福祉事務所設置自治体を対象にした実態調査をおこなうこと、検討にあたっては、生活保護の利用者、利用経験者、利用を希望したが扶養照会ゆえに断念せざるをえなかった人々、生活困窮者支援に関わる団体や法律家の意見を反映することを求めます。

扶養照会の弊害をなくす活動に引き続き、ご注目をお願いいたします。

※関連記事:生活保護の扶養照会の運用が改善されました!照会を止めるツール(申請者用、親族用)を公開しています。