生活保護利用の最大のハードルとなっている扶養照会の運用が改善されて、まもなく3年半が経とうとしています。
2021年3月、厚労省は扶養照会について、直接の照会は援助が期待できる親族に限ることを明確にした上で、本人が拒む場合は丁寧な聞き取りをおこなうことを求める通知を各自治体に発出しました。
生活保護の扶養照会の運用が改善されました!照会を止めるツール(申請者用、親族用)を公開しています。
この運用改善を踏まえ、生活保護の申請者・利用者が親族に連絡してほしくないと望む場合は、その意思を尊重すると明言する自治体も増えてきましたが、一部には通知を恣意的に解釈し、親族間関係への過度な介入を続けている自治体もあります。
特にこの間、生活保護の違法運用が問題になった群馬県桐生市や奈良県生駒市では、扶養照会を申請を断念させるためのツールとして利用するだけでなく、照会後の一連のプロセスにおいても違法・不適切な手段を駆使して、徹底的に申請者・利用者を追い詰めていたことが明らかになりました。
桐生市では群馬県の特別監査により、扶養の可否の「照会」を越えて、親族に対して仕送りを強要していたこと、親族から提出された「扶養届」が書き換えられていた事例もあったこと(援助「できません」から「します」になっていた例も)、実態を欠く仕送りの「カラ認定」(扶養の偽装)によって申請却下や保護廃止、保護費が減額されていた事例が多数あったことが明らかになりました。
群馬県「令和5年度生活保護法施行事務監査(特別監査)の実施結果について」資料PDF
生駒市では、高齢で認知症のある母親が引き取り意向を示したことを理由とする申請却下が違法とする判決が今年5月30日に奈良地裁で言い渡されました。
本人の意思を踏まえずに扶養照会を強行することは厚労省通知に反する人権侵害であり、扶養の強要や偽装は制度の根幹を揺るがす違法行為です。しかし、こうした違法・不当運用の背景には、これらの行為を誘発する、違法・不当な内容の厚生労働省通知の存在があります。
問題の通知はいくつもありますが、最も問題なのは、昭和36年に出された「要保護者に扶養義務者がある場合には、扶養義務者に扶養及びその他の支援を求めるよう要保護者を指導すること」という厚生省次官通知が現在も有効とされていること、親族に扶養の意思があるにもかかわらず申請者が「感情的な理由のみによって受けられる扶養の履行を受けない」場合は保護を却下してもよいという明らかに法の解釈を誤った記載が「生活保護手帳別冊問答集」に残っていることです。
また、厚労省が保護の実施要領において親族からの仕送り額を認定する方法が明確に記していないことが、一部自治体による「カラ認定」(扶養の偽装)という不正行為を引き起こしています。
そこで、つくろい東京ファンドは、生活保護問題対策全国会議、桐生市生活保護違法事件全国調査団、奈良県の生活保護行政をよくする会とともに8月6日(火)、厚生労働省に「生活保護の扶養に関する違法・不適切な運用の原因となっている厚生労働省通知の改正を求める要望書」を提出し、一連の通知の削除・見直しと実施要領の改正等を求めました。
「生活保護の扶養に関する違法・不適切な運用の原因となっている厚生労働省通知の改正を求める要望書」PDF
要望書は長文ですが、ぜひご一読いただき、生活保護行政の改善に向けて共に声をあげていただけるとありがたいです。