今年の夏は、一昨年からの物価高騰に加え、酷暑による電気代の負担とコメの品薄・価格上昇が低所得者の生活に大きな打撃を加えています。

本来、すべての人の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために設計されている生活保護制度においては、2013年以降、基準の引下げが繰り返し行われた結果、生活費に相当する生活扶助費が不当に低い水準に抑えられています。

※2013年からの過去最大の生活保護基準引下げについては、減額取り消しを求める訴訟が各地で続いており、「引下げは違法」との原告勝訴判決が相次いでいます。詳しくは、「いのちのとりで裁判全国アクション」のサイトをご覧ください。
https://inochinotoride.org/

そのため、近年は私たち生活困窮者支援団体にも「生活保護を利用していても生活が苦しい」という声が多数寄せられる事態になっています。

エアコンの持ち合わせがない生活保護世帯には、2018年4月から厚生労働省の通知によりエアコン購入費の支給が認められることになりましたが、なぜか対象者が一部に限定されているため、未だにエアコンのない部屋で夏を過ごしている人もいます。

また、冬の暖房代には保護費に冬季加算が付けられていますが、夏季には加算がないため、エアコンがあっても電気代を気にして使用を控え、熱中症になってしまう人も少なくありません。

この夏の厳しい状況については、つくろい東京ファンドの小林が記事を書いていますので、ご参考にしてください。

【7月31日】40℃に迫る猛暑下でエアコンのない生活をする人たちがいる不公正(小林美穂子)
https://maga9.jp/240731-2/

【9月4日】令和の米騒動~主食すら満足に供給できない国で~(小林美穂子)
https://maga9.jp/240904-3/

生活保護の基準は5年おきに見直しが行われており、2013年に続き、2018年にも引下げが強行されました。
その次の2023年見直しでも引き下げられることが懸念されましたが、この時は急激な物価高騰を踏まえ、特例的な加算をおこなう等、2023~2024年度は引下げを回避する基準改定が行われました。

その上で、2025年度以降の基準については2025年度の予算編成過程において改めて検討するとの方針が示されています。

厚生労働省は現時点では2025年度の基準についての方針を示していませんが、もし引き下げや現状維持との決定が行われば、「生活保護利用者の生活苦」がさらに深刻化することは間違いありません。

生活保護問題対策全国会議や「いのちと暮らしを守る なんでも相談会実行委員会」など、貧困問題に取り組む全国の15団体は9月13日、厚生労働省に要望書を提出し、下記の3点の政策実施を求めました。この要望書には、つくろい東京ファンドも連名で参加し、要請行動には代表の稲葉が参加しました。

要望事項

(1)2025年度の生活扶助基準額を全ての生活保護利用世帯について、2025年度の生活扶助基準額を少なくとも7.7%以上引き上げること。
(2)夏季の光熱水費を賄うための夏季加算を創設すること。
(3)全ての生活保護利用世帯について、エアコン購入費用の支給を可能とすること。

9月13日、厚生労働省への申し入れ

要望書の全文は、生活保護問題対策全国会議のブログで読むことができます。

厚労省に「2025年度の生活保護基準額改定にあたって大幅な増額と夏季加算創設等を求める要望書」を提出しました。-生活保護問題対策全国会議
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-510.html

申し入れの後の記者会見で、50代の生活保護利用者の男性が「今年の夏は猛暑と物価高で、とんでもなく地獄を見ている。室温が37~38度になっているが、部屋にあるのが古いエアコンなので、電気代が怖くて使うに使えない。熱中症になり、食事もまともに喉を通らなくなった」と語っていました。

また、記者会見で小久保哲郎弁護士(生活保護問題対策全国会議事務局長)は、物価高騰は世界中で起こっているが、ドイツ、韓国、スウェーデンは物価高騰に合わせて公的扶助の基準を大幅に引き上げていると紹介。

日本では、政府の自殺統計で2022年度から職業別・原因別の統計に「生活保護受給者」というカテゴリーが追加されたが、それによると「生活苦」を理由に自死をしたとされている生活保護利用者は、2022年度86人、2023年度118人もいると指摘。生活保護制度を利用しているにもかかわらず、「生活苦」により人が亡くなっている現状に厚生労働省は危機感を持つべきだと語りました。

【関連記事】生活保護を受けているのに、生活苦による自殺が年 118件 猛暑、物価高……追い詰められる利用者たち:生活ニュースコモンズ

【関連記事】80代夫婦「扇風機がまん、せんべいを1日1食」 生活保護費「基準額上げて」 支援団体が厚労省に要望書:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/354033

日本弁護士連合会は、10月3日(木)に開催される人権擁護大会シンポジウム(名古屋会場とオンライン)で、18年ぶりに生活保護問題をテーマにした分科会を開催します。
東京弁護士会も9月27日(金)にプレシンポジウムをオンラインで開催。こちらには、つくろい東京ファンドの稲葉も登壇します。

これらのシンポジウムでも生活保護基準引上げの必要性を訴えていくので、ぜひご注目ください。

10月3日(木)日弁連:第66回人権擁護大会シンポジウム第1分科会
「今こそ、生活保障法の制定を!~地域から創る、すべての人の“生存権”が保障される社会~」

https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2024/241003_04.html
チラシPDF https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/event/year/2024/241003_chirashi_1.pdf

9月27日(金)東京弁護士会:プレシンポジウム 「生活保護バッシングを乗り越えて~基準引下げ訴訟の現在と、あるべき生活保護の かたち~」
https://www.toben.or.jp/know/iinkai/jinken/news/post_29.html