「生活保護費を1日1000円に分割して支給し、基準額の半額程度しか渡さない」、「生活保護決定後も長期にわたり保護費を渡さない」、「利用者の印鑑を計1948本保管し、本人の同意なく押印していた」、「職員に恫喝されたり、暴言を吐かれた」…。

昨年11月以降、群馬県桐生市の生活保護行政において、数え切れないほどの違法行為・人権侵害が長年にわたり行われてきたことが発覚。2011年度からの10年間で市内の生活保護利用者数が半分以下になるという異常な事態が起こっていたことが判明しました。

桐生市の生活保護利用者数及び生活保護費総額の推移

今年春、生活保護問題に取り組む全国の研究者や法律家、つくろい東京ファンドを含む各団体の関係者は「桐生市生活保護違法事件全国調査団」(団長:井上英夫 金沢大学名誉教授)を結成。問題の徹底検証、再発防止を求めて桐生市、群馬県、厚生労働省等への申し入れ・交渉をおこなってきました。

この一連の桐生市問題は、東京新聞前橋支局が2度にわたる連載記事(下記参照)を掲載する等、一部の新聞やネットメディアが積極的に報道をおこない、広く社会に知られるようになりました。しかし、マスメディア全体で見ると、この国の生活保護行政の根幹を揺るがす問題であるにもかかわらず、群馬県のローカルニュースという扱いが多く、特にテレビではほとんど取り上げられてきませんでした。

そんな中、私たちはNHK『クローズアップ現代』の取材班が現地で取材をしていることに注目をしてきましたが、その『クローズアップ現代』の生活保護問題特集が9月18日(水)に放映されることが先日、発表されました。
番組では、桐生市問題をいち早く追及し、今年3月に急逝された仲道宗弘さんの活動も紹介されると聞いています。スタジオゲストは立命館大学の桜井啓太さんが出演される予定です。

NHK『クローズアップ現代』「助けてと言ったのに・・・」 生活保護でいま何が?
初回放送日:2024年9月18日

https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/R7Y6NGLJ6G/episode/te/3MQ2N963KV/

ぜひご注目ください。

桐生市では問題発覚後、「生活保護業務の適正化に関する第三者委員会」が設置されましたが、つくろい東京ファンドスタッフの小林美穂子は、この第三者委員会の傍聴を続けています。

桐生市第三者委員会の会合


第三者委員会はこれまで4回、会議を開催しましたが、会議の中では群馬県が実施した「特別監査」の詳細な資料や桐生市の内部調査チームによる報告書も公開されました。

こうした新事実により、「仕送り偽装」など桐生市の生活保護行政の隠されていた実態が明らかになりつつあります。

そこで、全国調査団は新たに公表された資料と議論の経過を踏まえて、現段階での検証状況のポイントとさらなる調査の必要性について、9月下旬に桐生市と第三者委員会に要望書を提出することに決定しました。

今回は特に、①認印の大量保管、②境界層該当措置による却下、③施設入所による廃止、④生活保護利用者数の急減という4つのポイントについて、要望をおこなう予定です。

9月25日(水)には記者会見(14時~厚生労働記者会)を開き、問題の全容解明に向けて、今後、追及すべきポイントと、桐生市の現地でも始まった生活保護行政改善に向けた市民の動きについても報告する予定です。

桐生市生活保護問題の全容解明・再発防止に向けた取り組みに引き続き、ご注目をお願いいたします。

【桐生市生活保護問題の経緯】

※青字をクリックすると、本サイトにアップした記事のリンクにつながります。

2023年

11月20日 群馬司法書士会が「1日1000円」生活保護費満額不支給問題で桐生市に申し入れ
11月30日 荒木恵司市長が謝罪コメントを発表
12月18日 荒木市長が定例記者会見であらためて謝罪。内部調査チームと第三者委員会の設置を表明

2024年

3月4日 生活保護問題に取り組む全国の研究者、法律家、支援団体関係者によって結成された「桐生市生活保護違法事件全国調査団」が桐生市と群馬県に対して公開質問状を提出

群馬県桐生市で数々の違法対応・人権侵害が発覚。「調査団」を結成し、解明・追及へ(3月17日)

3月13日 桐生市問題を追及してきた仲道宗弘司法書士がDialogue for Peopleのインターネットラジオ番組「Radio Dialogue」に出演

3月20日 仲道宗弘司法書士が急逝される

3月27日 桐生市の第三者委員会が初会合

桐生市の生活保護行政「生まれ変わり」の前にすべきことは?(4月3日)

4月3日 生活保護利用者2人が市を相手取った国家賠償訴訟を前橋地裁桐生支部に提訴

4月4日~5日 桐生市生活保護違法事件全国調査団の現地行動。群馬県・桐生市などへの申し入れ。市内にて集会開催。

桐生市の生活保護率はなぜ10年間で半減したのか?~「全国調査団」の活動より(4月7日)

4月11日 参議院厚生労働委員会でつくろい東京ファンドの稲葉剛が参考人として意見陳述。桐生市問題における国の責任を指摘。

桐生市生活保護違法事件における国の責任~参議院厚生労働委員会・参考人意見陳述(稲葉剛)(4月11日)

6月14日 全国調査団が桐生市の民間金銭管理団体の問題で厚生労働省社会・援護局保護課、桐生市、群馬県に申し入れ

桐生市生活保護問題に新たな展開~民間金銭管理団体に関する要望書を提出、第三者委員会のあり方にも意見を出しました。

6月18日 参議院厚生労働委員会で石橋みちひろ議員が桐生市の民間金銭管理団体の問題について質問。武見敬三厚生労働大臣が「徹底指導」を約束

満額不支給を完全に終わらせるために~厚労大臣は是正されるまで徹底指導すると約束。被害者はご相談を(6月18日)

※その後、民間金銭管理団体との契約解除が進み、2022年度に66件あった金銭管理世帯は、7月末時点で43件へと減少。

6月21日 群馬県が桐生市への特別監査の結果概要を発表。保護費の満額不支給は違法と指摘。「仕送り偽装」などの新たな事実が判明

仕送りを偽装して生活保護を却下~群馬県特別監査で明らかになった桐生市「保護率半減」の背景(6月25日)

7月19日 前橋地裁で国家賠償請求訴訟の第1回口頭弁論。市は生活保護費が一部不支給だったことは認めたものの、請求の棄却を求める答弁書を提出。

8月6日 全国調査団などは厚生労働省に対して「生活保護の扶養に関する違法・不適切な運用の原因となっている厚生労働省通知の改正を求める要望書」を提出

扶養照会強行だけでなく、仕送り強要や「カラ認定」(扶養偽装)も。一部自治体の「暴走」の温床となっている厚労省通知の削除・改正を求めます(8月6日)

9月下旬 全国調査団が桐生市及び第三者委員会に新たな要望書を提出予定。

*東京新聞連載「砂上の安全網」(全4回)

〈連載1〉これが生活保護の水際作戦…電気も水道も止められているのに「家族で支え合って」と突っぱねた市職員

〈連載2〉「市を訴えるってこと?」・・・福祉課職員に怒鳴られた娘、尊厳否定され死んだ父 生活保護めぐり心に傷

〈連載3〉生活保護、水際作戦が常態化? 桐生市の「異様さ」がデータで見えた 「最低水準」の背後に何があったのか

〈連載4〉生活保護の「水際作戦」の背景には偏見 国はマイナンバー並みの熱意で「正しい理解」の普及に努めるべき

*東京新聞連載「続・砂上の安全網」(全3回)

〈連載1〉「生活保護の身でえらそうに…」桐生市職員の言動に追い詰められ、出した結論は「ここに将来はない」:東京新聞 TOKYO Web

〈連載2〉水際作戦の一環か?生活保護の担当部署になぜか「警察OB」を採用 専門家も驚いた桐生市の手口:東京新聞 TOKYO Web

〈連載3〉「ばれると仕返しされる」…証言を拒む困窮者たち 桐生市の生活保護「水際作戦」の全容はまだ見えない:東京新聞 TOKYO Web