昨年11月以降、群馬県桐生市の生活保護行政において、保護費の満額不支給や申請権の侵害等、様々な違法行為・人権侵害が長年にわたり行われてきたことが明らかになりました。

生活保護問題に取り組む全国の研究者、法律家、支援団体関係者は「桐生市生活保護違法事件全国調査団」(団長:井上英夫 金沢大学名誉教授)を結成し、問題の徹底検証、再発防止を求めて桐生市、群馬県、厚生労働省等への申し入れ・交渉をおこなってきました。

問題発覚を受けて桐生市に設置された「生活保護業務の適正化に関する第三者委員会」はこれまで4回、会議を開催しましたが、会議の中では群馬県が実施した「特別監査」の報告や桐生市の内部調査チームによる報告書も公開されました。これにより、さまざまな新事実を含む桐生市の保護行政の実態が明らかになっているところです。
調査団は9月20日、新たに公表された資料と議論の経過を踏まえて、現段階での検証状況のポイントとさらなる調査の必要性に関する要望書を桐生市と第三者委員会に提出いたしました。

要望書「桐生市生活保護行政に関する現在の検証状況のポイントとさらなる検証の必要について」PDF

今回は特に、①認印の大量保管、②境界層却下、③施設入所による廃止、④被保護人員数の急減という4つのポイントについて、要望をおこなっております。

このうち、被保護人員数(生活保護利用者数)と保護率の半減に関する箇所を以下に引用します。

群馬県は、桐生市の生活保護受給者の半減の少なくとも一因として、不適切な運用(面接相談における申請権の侵害や、実態に基づかない仕送り認定における却下など)事案が多数あったことを認めています。県による特別監査の報告と内部調査による職員の意識との乖離こそが構造的な問題点であると言えます。


内部調査報告書では「上司から保護件数や新規申請を抑えるよう指示を受けたことがあったかとの質問に対し、指示があったと答えた職員はいなかった 」とありますが、まず「水際作戦をしたか」という質問にイエスと答える職員はほぼいません。そもそも水際作戦というのは、「上司から保護件数や新規申請を抑えるような指示」のみを指すものではなく、面接相談時における申請者の申請権を侵害するような違法・不適切な対応全般を指します。この点からも桐生市は現段階においても、自身が行ってきた数多くの不適切事案に対する受け止めが十分でないことが伺われます。


組織が根本の体質から変わるためには、それまでの自身の行為に対する自省と率直な受け止めが欠かせません。桐生市の福祉事務所が、数多くの申請権の侵害や不適切事案に対して、それが違法・不適切であるという意識がなぜなかったのか、組織体制や業務への取り組み姿勢なども含めた総合的な検証と自省が求められます。

9月18日(水)にはNHK「クローズアップ現代」で桐生市の生活保護問題が取り上げられ、大きな反響を呼びました。

クローズアップ現代取材ノート「最後のとりでの生活保護 未払いのウラに何が?」

番組の中で、桐生市の保健福祉部長は保護費の満額不支給問題について「アグレッシブに指導したというようなところはあったのかと思う」と発言。事態の深刻さを認識していないことが浮き彫りになりました。

この発言に批判が集まったことが影響したのかもしれませんが、番組放映の翌日の19日、桐生市市議会で保健福祉部長は渡辺ひとし市議の質問に対して「(国の監査に対し)組織や仕組みとしての対処がされていなかったことが、今般の県の特別監査による是正改善の指摘事項につながったと反省している」と答弁。満額不支給問題についても、別の市議の質問への答弁で初めて違法性を認める発言をおこないました。

生活保護の不適切対応 「組織での対処なく反省」国の2度の監査指摘生かせず 桐生市議会一般質問 -桐生タイムス

調査団は引き続き、問題の徹底検証と被害者の救済を求めていきます。ご注目ください。