11月12日、生活保護問題対策全国会議、つくろい東京ファンドなど全国32団体は厚生労働省に対し、「2025年度の生活保護基準額改定にあたり物価高騰をふまえた大幅な引き上げを求める要望書」を提出し、厚生労働記者会で記者会見をおこないました。
要望書では、記録的な物価高が特に低所得者世帯の家計に影響を与えていること、ドイツ、韓国、スウェーデン等の諸外国は近年、公的扶助基準を大幅に引き上げていることを指摘。実質的に購買力を維持するには生活保護基準を単身世帯で13%、複数世帯で12・6%引き上げる必要があると主張しています。
申し入れ・記者会見には「いのちのとりで裁判」(生活保護基準引下げ違憲訴訟)をたたかう岡山、埼玉、東京の原告も参加し、厳しい生活実態について発言しました。
厚生労働省からは来年度の生活保護基準については物価、消費、賃金水準など総合的に検討を進めており、12月下旬には結論を出したいという話がありました。
12月4日(水)12時~には参議院議員会館講堂で「物価高で暮らせないぞ!下げるな!上げろ!生活保護基準」と題した緊急院内集会を開催いたします(詳細は後日、お知らせします)。
引き続き、ご注目をお願いいたします。
2024年11月12日
2025年度の生活保護基準額改定にあたり物価高騰をふまえた大幅な引き上げを求める要望書
厚生労働大臣 福岡 資麿 殿
私たち(文末に記載した32団体)は、本年9月13日付けで同趣旨の要望書を提出したところですが、年末にかけて来年度予算編成作業が本格化するにあたり、近年の物価高騰が生活保護利用世帯に与えた影響についての新たな試算結果等をふまえ、改めて以下の要望を行います。
第1 要望の趣旨
1 前回改定時(2020年)以降の特異な物価高をふまえ、生活保護利用世帯の実質的購買力を維持するため、2025年度の生活扶助基準額を単身世帯は13%、複数世帯は12.6%以上引き上げることを要望する。
2 2019年の全国家計構造調査の所得下位10%層の消費水準を基礎とした2022年の生活保護基準部会による検証は白紙撤回をし、「健康で文化的な生活」を維持し得る生活保護基準の設定に向けた再検証を要望する。
第2 要望の理由
1 はじめに
国は、2023 年度からの生活保護基準の在り方を検討した生活保護基準部会の2022年12月6日付け報告書をふまえ、「生活保護基準の見直し」方針を示し、2023~2024年度の2年間の生活扶助基準については、①2019年当時の消費水準(検証結果反映後)に一人当たり月額 1,000 円を特例的に加算し、②①の措置をしても現行基準が減額となる世帯については現行の基準額を保障することとし、さらに、③2025年度以降の生活扶助基準額については、2025年度の予算編成過程において改めて検討するとした。
そして、今、来年度予算編成に向けて、2025年度の生活扶助基準の改定内容の検討が本格化する時期を迎えている。
2 2025年度の生活保護基準が大幅引下げとなる危険が大であること
上記の「見直し」方針は、「生活保護基準部会における検証結果を反映することを基本」としたうえで、2025年度(令和7年度)以降については、「一般低所得世帯の消費実態との均衡を図るため、上記の検証結果を適切に反映する」としていることからすると、「その時々の社会経済情勢等を勘案」しない限り、生活保護世帯の55.4%を占める高齢者世帯と4割を占める都市部(1級地の1)居住世帯、つまり、生活保護世帯のほとんどにおいて大幅な引下げとなる可能性が高い。
具体的には、下記一覧表のとおり、65歳の高齢者世帯は1級地の1(都市部)で減額(単身世帯は7.7万円から7.4万円に3.4%減額)、75歳以上の高齢者世帯は全級地で減額(1級地の1の単身世帯は7.2万円から6.8万円に5.9%減額)となるなど、都市部の高齢世帯を中心に基準引下げが見込まれる。
3 最貧困層との比較による検証手法が破綻していること
上記の生活保護基準部会での検証は、2019年の全国家計構造調査における、第1十分位(所得下位10%)の消費水準と生活保護基準を比較する手法に拠っている。
しかし、日本の生活保護の捕捉率が極めて低いことからすれば所得下位10%の最貧困層には生活保護基準以下の水準での生活を強いられている世帯が多数含まれている。そのような最貧困層の消費水準と生活扶助基準の比較という手法に依拠し続ければ、基準部会自身が自認しているとおり、肉体的生存を確保する「絶対的な水準を割ってしまう懸念がある」(2022年報告書35頁)。単身高齢世帯の生活扶助費が6.8万円と遂に7万円を下回ることとなれば、もはや明らかに肉体的生存の維持さえ危うい領域であり、これは上記の検証手法が既に破綻していることを示している。
しかも、上記検証が使用とした2019年の消費支出データは、次に述べる2021年後半から始まった物価高騰の影響を受ける以前のものであり、現時点でこれを反映させる前提を欠く。現在行われている2024年度の全国家計構造調査の公表を待って再検証を行うべきである。
4 低所得世帯の生活を直撃している記録的な物価高
総務省統計局が2024年8月23日に発表したところによると、2020年度を100とした、2023年度平均の消費者物価指数は、3年連続して上昇し、生鮮食品を除いた総合指数が105.9%となり、2022年度より2.8%上昇した。とくに生鮮食品をのぞく食料は7.5%も上がり、1975年度(11.4%)以来の伸びとなった。
また、上記(表3)のとおり、2024年9月分の消費者物価指数は、2020年を100とすると108.9%で、前年同月比で3.0%上昇した。なかでも食料の消費者物価指数は119.0(前年同月比3.6%上昇)で、特に生鮮食品は125.6(同前7.8%上昇)、光熱・水道は110.5%(同前15.0%上昇)に及ぶ。
このように昨今、異常ともいえる物価高が続いており、特に、低所得者の家計に占める割合の高い、食料や光熱・水道にかかる費用が著しく高騰しているため、生活保護利用者の家計を直撃している。
5 諸外国(ドイツ、韓国、スウェーデン)は公的扶助基準を大幅に引き上げていること
2012年以降の日本、ドイツ、韓国の公的扶助基準額の推移を比較すると以下の表のとおり、かつては日本が一番高かったが、その後引下げが続く一方、ドイツ、韓国は引上げが続いてきたため逆転され、さらに乖離が大きくなりつつある。
ドイツは、2023年の市民手当導入に際し、直近の物価上昇に対応できていないとして法改正までし、2023年、2024年には2年連続して各12%もの大幅引上げをした。
韓国では、国民基礎生活保障制度の生計給与の支給要件となる所得基準は、2023年には7%、2024年には14%も引上げられた。韓国政府は、さらに、これを2026年まで段階的に引上げることを決定している。
なお、スウェーデンの生計援助の生計費の全国標準額(単身者)の月額も、近時の物価高に対する対応で、2022年3210クローナ(4.6万円)から2023年3490クローナ(5万円)へと前年比8.7%引上げられ、2024年も3800クローナ(5.4万円)へと前年比8.9%引上げられている。(注:電気代、交通費等は別途原則として実費が支給される。)
6 生活保護基準の引下げではなく、物価高を勘案した基準引上げが必要であること
生活保護利用者は、度重なる生活保護基準の引下げにあったうえに、2013年からの史上最大(最大10%、平均6.5%)の生活扶助基準の引下げについては、直近の10月28日の岡山地裁判決を含め、18地裁、1高裁で違法であるとの判決が言い渡されている。すなわち、既に生活保護基準が「最低限度の生活」以下の生活を強いるものになっていることに加え、急激な物価高騰によって生活保護利用者の生活は極めて過酷なものとなっているのである。
前回生活扶助基準が改定された2020年4月以降の消費者物価指数の動向を見れば、上記4で述べたとおり、2024年9月の消費者物価指数は、2020年に比較して108.9と8.9%上昇しており、特に生活保護世帯の消費に占める割合が高い食料費や光熱水費において高騰している。
生活保護利用世帯の実質的購買力を維持する観点からすると、本来、生活扶助に相当する消費支出に関する品目に限定して、生活保護利用世帯の家計調査である「社会保障生計調査」(又は少なくとも第1・十分位(下位10%)層、第1・五分位(下位20%)層の消費支出)に基づく消費構造を前提とした物価の影響を勘案するのが相当である。
これを試算したところ、上記一覧表のとおり、第1・五分位で112.1、第1十分位で112.2、社会保障生計調査(2人以上世帯)で112.6、同(単身世帯)で113.0と、12.1%から13.0%の上昇となっている。
したがって、生活保護利用世帯の実質的購買力維持の観点からは、来年度の生活扶助基準は、単身世帯については13%、複数世帯については12.6%引き上げる必要がある。
(要望団体)
生活保護問題対策全国会議/いのちと暮らしを守る なんでも相談会実行委員会
いのちのとりで裁判全国アクション/生活保護基準引下げにNO!全国争訟ネット
全国クレサラ・生活再建問題対策協議会 / 一般社団法人つくろい東京ファンド
一般社団法人反貧困ネットワーク / 一般社団法人シンママ大阪応援団
きょうされん / きょうされん大阪支部 / 障害者労働組合
全国生活保護裁判連絡会 / 北九州市社会保障推進協議会
NPO法人ささえる絆ネットワーク北陸 / 特定非営利活動法人さんきゅうハウス
NPO法人ほっとポット / 全国生活と健康を守る会連合会(全生連)
全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連) / 生活困窮者支援りぼん
NPO法人サマリア / 特定非営利活動法人みんないっしょ
奈良県の生活保護行政をよくする会 / 反貧困ネットワーク埼玉
like minds(ライクマインズ) / ダイアローグ in YOKOHAMA
ホームレス問題の授業づくり全国ネット / 生活保護基準引下げ反対埼玉連絡会
北陸生活保護支援ネットワーク石川 / 一般社団法人 人権精神ネット
生活保護基準引下げ違憲訴訟を支える大阪の会(引下げアカン!大阪の会)
大阪クレサラ・貧困被害をなくす会(大阪いちょうの会)
非正規労働者の権利実現全国会議 (計32団体)
(連絡先)〒530-0047 大阪市北区西天満 3 丁目 14 番 16 号
西天満パークビル3号館7階 あかり法律事務所 弁護士 小久保 哲郎
以 上