群馬県桐生市の生活保護行政において長年、違法・不適切な制度の運用が行われ、相談者・利用者への人権侵害が頻発していたことが発覚して、まもなく1年になります。
発覚のきっかけは、生活保護費を「1日1000円」しか渡されず、本来の基準額の半分程度しか受け取れていなかった男性から相談を受けた反貧困ネットワークぐんまの仲道宗弘司法書士が、昨年11月21日、桐生市に運用改善を求める要請書を提出したことでした(仲道氏は追及の最中、今年3月20日に急逝されました)。


この「1日1000円」問題は各メディアで報道され、12月には荒木恵司市長が会見で謝罪。その過程で、桐生市の生活保護利用者が10年間で半減していたことが、福祉事務所の現場経験者らでつくる「生活保護情報グループ」の分析によって判明しました。

桐生市の生活保護利用者数と保護費総額の推移


今年4月には全国の法律家、研究者、支援団体関係者でつくる「桐生市生活保護違法事件全国調査団」が市や群馬県に問題の徹底解明と抜本的な改善を求める要請書を提出しました。
 これまでの経緯は下記の記事をご覧ください。

桐生市生活保護問題とは何か?全容解明に向けて調査団は新たな要望書提出へ(事件の経緯と記事一覧)

「アグレッシブ」で済む問題ではない。桐生市生活保護行政に関する現在の検証状況のポイントとさらなる検証の必要について

また、11月16日より朝日新聞デジタルで、桐生市問題に関する連載が始まりました(全文を読むには登録が必要です)。貧困の現場を長年、取材してきた清川卓史編集委員による記事なので、注目しています。

第1回 生活保護利用者、10年で半減 「厳しい指導」「仕送り強要」の疑い

第2回 「仕返しされる…」おびえる生活保護利用者 家族の援助ないのに減額

桐生市は、専門家による第三者委員会を設置し、第三者委員会はこれまで5回の会合を開きました。次回は11月27日(水)に開催予定です。

桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会

桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会

元幹部職員への聞き取り調査の結果は、要約のみが公表

10月7日に開かれた第三者委員会の第5回会合では、市の内部調査チームが退職した元幹部職員5人への聞き取り調査の結果を発表しましたが、それは5人の証言をそのまま記載したものではなく、内部調査チームが5人の証言を要約した「総括」の形で出されていました。


「総括」の中には「厳しい指導をした管理職がいた」との記載もありましたが、その「指導」の中身や対象は明記されておらず、内部調査チームが証言を要約することで、あえて内容を曖昧にしているという印象を持たざるをえませんでした。
また、「最低生活費未満の収入でも、頑張れる人はいるとの話もあった」という信じがたい記載もありました。これは「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するという生活保護制度の趣旨を理解していない人物が管理職を務めていたことを意味しており、更なる追及が必要です。

◆国の様式とは異なる「扶養届」

第5回会合では、市が親族に送付している「扶養届」(扶養照会への回答書)の様式についてのやりとりもありました。
群馬県の特別監査では桐生市が生活保護申請者・利用者の親族に仕送りを強要していたことが指摘されています。
これに関連して、委員が「扶養届」の様式について質問したところ、市の福祉課長が「基本的に(扶養届の)各項目というのは内容的には、国が示したものとほぼ同一というような形となっております」と回答したため、この日の会合ではそれ以上の追及はありませんでした。

しかし、この課長の説明は正確ではありません。桐生市は問題発覚後に「扶養届」の様式を改善・変更しましたが、現在利用している扶養届にも下記のように国の様式例にはない以下の2つの項目が存在するからです。

・「精神的・金銭的にどうしても援助できない場合は、その理由と将来の援助等の見通しを具体的に記入してください」という項目がある。

・「生活保護対象世帯に対する意見等」「これまでの交流状況等」を書かせる項目がある。

桐生市が使用している「扶養届」

桐生市の「扶養届」は依然として親族に対し、あからさまにプレッシャーをかける内容になっており、人権侵害的な内容は完全には改まっていないと言えます。
 
群馬県からも仕送り強要の問題点を指摘されていたにもかかわらず、第三者委員会で扶養届の問題が見過ごされるようなことがあってはなりません。

◆「調査団」は新たな意見書を提出

第5回会合の資料を精査すると、他にも様々な課題が明らかになったため、「調査団」は11月、第三者委員会に新たな意見書を提出しました。

桐生市第三者委員会(第 5 回会議)の検証状況に関する意見PDF

意見書では第三者委員会に以下の4点を要望しています。

1.扶養届の桐生市様式について国の様式例と突き合わせて検証し、必要な改善を行う必要がある。

2.生活保護世帯の減少理由について、外部要因だけでなく、市の福祉行政の影響も踏まえた真摯な振り返りと分析を市に求める必要がある。

3.市の生活保護の一般財源と普通交付税の比較においては 2012 年度以降のデータの提出を受けて、検証を行う必要がある。

4.内部調査ヒアリングの結果、桐生市の違法・不適切対応につながるような発言が見られたことから、第三者委員みずからがヒアリングを行うなどして実態の解明に努める必要がある。

また、第三者委員会の検証対象及び運営方法についても改めて要望書を提出しています。

「桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会」による検証対象及び運営方法に関する再要望書PDF

桐生市において、なぜ生活保護の利用者が10年で半減したのか。問題発覚から1年が経っても、真相解明はまだ道半ばです。私たちは追及を続けていきますので、引き続き、ご注目をお願いいたします。

【アーカイブ配信】『桐生市生活保護問題の闇を暴く』