群馬県桐生市の福祉事務所が生活保護利用者に保護費の満額を支給していなかったり、利用者の印鑑を計1948本も保管し、本人の許可なく押印する等、様々な違法・不適切行為をおこなっていたことが明らかになり、1年以上が経過しました。
桐生市の荒木恵司市長は、昨年12月18日の定例記者会見の場で、一連の問題について「私が状況を把握していなかった。責任者として深く反省している。問題を検証し、適正な運営に取り組む」と謝罪。
その後、市が設置した第三者委員会が検証を進めていますが、生活保護利用者数が10年で半減した要因については、申請権の侵害(いわゆる「水際作戦」)など、市が長年、住民に対しておこなってきた人権侵害を明らかにする資料を第三者委員会に提出していないため、実態の解明が進んでいません。
桐生市では問題発覚以降、生活保護の申請・開始件数が増えていますが、このことはこれまでの「水際作戦」がいかに苛烈であったかを示しています。
12月19日の桐生市市議会の定例会では、渡辺ひとし市議会議員(日本共産党)が一般質問で今年度、生活保護開始件数が大幅に増えている背景を質問(動画の1時間32分頃~)
宮地保健福祉部長は2024年の4~10月の間に生活保護が開始になった世帯が前年度の同時期に比べて80世帯も増えたと報告。増加した要因には「申請しやすいように窓口対応を改善したこと」もあると認めましたが、申請権の侵害については「申請権の侵害が疑われる事案があったことは重く受け止めたい。今後は疑われることがないよう、より丁寧に対応に努めていく」と述べるにとどまり、申請権侵害があったことを認めませんでした。
渡辺市議が「これまで水際作戦が実態としてあったことはお認めになるのか」と追及したところ、部長は「第三者委員会で議論がされており、現時点では判断するのが難しい」と逃げの答弁に終始し、市としての判断を避けました。
第三者委員会は来年3月に報告書をまとめて終了することが発表されましたが、このままでは利用者の「半減」という結果を導いた人権侵害が隠蔽されてしまう結果になりかねません。
桐生市生活保護違法事件全国調査団は12月19日、桐生市及び第三者委員会に対して、「生活保護行政の総括と検証および市民の声を聞くことを求める要望書」を提出。市民アンケートや市内の医療・福祉・介護関係者からのヒヤリング等を実施し、徹底した検証をすることを求めています。
桐生市生活保護問題の概要と経緯については、朝日新聞デジタルに清川卓史編集委員による解説動画(約13分)がアップされていますので、ご参考にしてください。
【解説人語】ブラックボックス化する生活保護行政 利用者半減なぜ
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2024年12月19日
桐生市長 荒木 恵司 殿
桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会座長 吉野 晶 殿
桐生市と第三者委員会に生活保護行政の総括と
検証および市民の声を聞くことを求める要望書
桐生市生活保護違法事件全国調査団
団長 井上 英夫
日頃から桐生市市民への行政に尽力されていることに敬意を表します。
当調査団は、桐生市の生活保護行政における不適切な対応について、桐生市および第三者委員会に対し、度重なる要望書を提出し、様々な問題点を詳細に指摘し改善を求め、回答を得てきました。
こうした中で桐生市と第三者委員会は、委員会の開催を2024年度末の来年3月をもって終了する旨を明らかにし、委員会の開催も残すところ2025年1月と3月のわずか2回とされています。
当調査団は、この間の私たちによる分析に基づいた要望書に対し、市および第三者委員会からの回答は、十分に答えきれていないものと感じています。こうした状況で、残す2回だけの第三者委員会開催では、市民が望む桐生市の生活保護行政の実態を根底から明らかにすることが可能なのかと考えています。
つきましては、下記の要望項目を、今後の第三者委員会で深く検討・実施されることを訴え、回答を求めます。検証に時間が足りないなら、回数、期間の延長も考慮に入れるべきでしょう。
【記】
1 桐生市に対する要望
⑴ 桐生市では、生活保護の被保護人員数が2011年の1163人をピークに2023年4月に528人と54.6%の急減となっています。被保護人員の減少率では関東地方の福祉事務所でワースト1位と、「高齢化による自然減少」というこれまでの桐生市の説明は十分と言えず、他の要因について分析が必要です。被保護者が関東地方で最も急減した要因について、具体的にお答えください。
⑵ 警察官OBの配置について、桐生市ではケースワーカー6人程度の福祉事務所として異例の最大4人(保護係3人 生活困窮部局1人)を配置していました。全国調査団に桐生市が2024年3月に回答した「公開質問状に対する回答」では、相談員(警察OB)の相談窓口における年間対応件数(新規面接相談における件数)は、2022年で132件となっており、桐生市の2022年の相談件数がのべ79件、実件数73件を上回る件数となっています。全国調査団で独自入手した相談員(警察OB)の対応記録(帳票)等をみても、暴力団関係者や不当要求者に限定せず、相談のほとんどに警察OBが同席しています。この同席においては、私たちが情報公開請求により入手した同行訪問等報告書において、初回相談や初回申請時に相談員(警察OB)ではなく、就労支援相談員(警察OB)が同席している事例が複数件見られました。実質的に相談員(警察OB)と就労支援相談員(警察OB)の役割が区別されていなかったおそれがあります。桐生市は上記相談員の業務に関わる実施要領等を作成していません。これらの点について理由をお答えください。
就労支援相談員の配置では、厚生労働省が通知(平成27年3月31日付 社援保発0331号第20号)で「キャリアコンサルタントや産業カウンセラー等の資格を有する者やハローワークOB等の就労支援業務に従事した経験のある者など(中略)であることが望ましい」と示していたなかで、なぜ就労支援相談員の配置で暴力団対応経験がある退職警察官の紹介依頼を群馬県警本部に出していたのか、その理由と経緯をお答えください。
また、相談員、就労支援相談員のほかに、福祉課には生活困窮担当として警察OBが配置されています、本来生活困窮者の相談に寄り添う生活困窮部門にも警察OBを配置した理由と経緯についてお答えください。
⑶ 桐生市において福祉課で保管されていた認印が1948本あり、現金支給や保護費の返還金・徴収金の徴収等において受領印を職員が使用していた経緯が明らかになりました。桐生市の「生活保護業務における内部調査チーム」によれば、保管認印の使用について平成30年度から令和5年12月までの現金領収簿に押印された印影と保管印鑑の印影を全件目視で確認したところ、福祉課調査により判明していた86世帯に加えて、新たに10世帯の合計96世帯に保管印鑑の使用が認められました。しかし、これらは現金領収簿だけの調査であり、辞退届、取下届及び境界層却下時に使用された扶養届(第三者が代理記入したことがこれまでの検証で明らかになっています)については、受領印について保管印鑑が使用されたかについて調査がなされていません。桐生市での辞退・取下件数は近隣他市に比べて極めて多く、境界層却下に不適切な取り扱いがあったことはすでに明らかになっています。このため、これらの書面についても全件目視確認を行い、保管印鑑の使用がなかったか調査して、その結果を公表してください。
⑷ 大阪府堺市で、重度障害者がいる生活保護世帯に加算される家族介護料加算の支給漏れがあったことが明らかになりました。桐生市における、過去5年間における家族介護料加算の認定件数、及び重度障害者加算(同居家族の有無別)の認定件数についてお答えください。
⑸ 十分な検証ができない場合、第三者委員会の開催回数を増やし期限を延期することも検討してください。
2 桐生市第三者委員会に対する要望
(1)桐生市への要望の(1)(2)(3)についての分析を推進してください。調査団は本年11月6日に第三者委員会に提出した意見書「桐生市第三者委員会(第 5 回会議)の検証状況に関する意見」において、「生活保護世帯の減少理由について、外部要因だけでなく、市の福祉行政の影響も踏まえた真摯な振り返りと分析を市に求める必要がある」と提言しましたが、第6回会議では是正状況の確認が中心となり、半減の原因究明は進みませんでした。群馬県の特別監査が半減の理由として指摘する「申請権の侵害が疑われる事案」や「実態に基づかない仕送り認定」についても市から具体的な説明は行われていません。市が過去に蓋をする姿勢が明らかになった以上、第三者委員会はあらゆる手段を用いて、実態解明のための情報を収集し、半減の原因究明に努める必要があります。第三者委員会として、生活保護利用者や一般市民へのアンケート調査、医療・福祉・介護分野などで日常的に生活保護行政と接点のあった関連機関へのヒヤリングを実施した上で、報告書の作成にあたって半減の要因分析を中心に据えるようお願いいたします。
(2)検証に時間が足りないなら、回数、期間の延長も考慮に入れてください。
以 上