数々の違法・不適切運用が明らかになった群馬県桐生市の生活保護行政を検証する第三者委員会の議論が大詰めを迎えています。
1月24日に開催された第7回第三者委員会では、委員会が関係機関などに事実聴取をした結果を公表。
福祉事務所のハラスメント体質を裏付ける驚くべき証言がいくつも出てきました。

・高齢者施設職員が「市の福祉課から扶養届を代筆(偽造)して提出するよう求められた」と証言。
・群馬県地域定着支援センターの職員は「市の福祉課職員から怒鳴られた。『桐生市にはもう行きたくない』」と証言。
・生活保護業務経験のある市役所職員のアンケートでは、62%が「福祉事務所の対応に不適切なものがあった」と認める。
・市職員からは「生活保護開始決定時の決裁慣行の重圧」、「ハラスメントまがいの上司の態度」、「生活保護開始とならない対応を推奨するかのような雰囲気があった」との証言も。
第三者委員会が設けた情報提供フォームには、市内外から118件の事例が寄せられたとの報告もありました。
第三者委員会は3月末までに報告書をまとめる方針ですが、期間を延期して実態解明を進めるべきだと考えます。
桐生市生活保護違法事件全国調査団は、2月10日に市及び第三者委員会に「第三者委員会の期限の延期と徹底した検証を求める要請書」を提出。次回の第三者委員会が開催される3月14日(金)に向けて、さらに働きかけを進めていきます。ぜひご注目ください。
2025年2月10日
桐生市長 荒木 恵司 殿
桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会委員長 吉野 晶 殿
第三者委員会の期限の延期と徹底した検証を求める要請書
桐生市生活保護違法事件全国調査団
団長 井上 英夫
日頃から桐生市民についての行政の充実に尽力されていることに敬意を表します。
当調査団は桐生市の生活保護行政における違法かつ不適切な対応について、その問題構造と論点について調査分析を行い、原因分析を踏まえた要望を行ってきました。
昨年11月6日に当調査団が提出した「桐生市第三者委員会(第 5 回会議)の検証状況に関する意見」では、「生活保護世帯の減少理由について、外部要因だけでなく、市の福祉行政の影響も踏まえた真摯な振り返りと分析を市に求める」こと、「内部調査ヒアリングの結果、桐生市の違法・不適切対応につながるような発言が見られたことから、第三者委員みずからがヒアリングを行うなどして実態の解明に努める」こと等を要望しました。
また、12月19日に提出した「桐生市と第三者委員会に生活保護行政の総括と検証および市民の声を聞くことを求める要望書」では、市に(1)生活保護世帯が半減した要因を具体的に説明すること、(2)警察官OBを配置した理由と経緯を明らかにすること、(3)福祉課で保管されていた認印の使用に関する追加調査を実施することを求め、第三者委員会には生活保護世帯や一般市民、関連機関からの情報を収集した上で、報告書の作成にあたって半減の要因分析を中心に据えることを要望しました。
今年1月24日に開催された第7回第三者委員会会議では、第三者委員会から「第三者委員会が行った事実聴取結果」(資料15-2)が公表されましたが、第三者委員会が独自に実施した事実聴取のうち、この日の会議で公表された結果は一部にとどまっており、公表された箇所も後述するように更なる追加調査の必要性を浮かび上がらせる内容になっていました。
また第三者委員会が独自に設置した「外部からの情報提供フォーム」に市内外から118もの事例が寄せられたことも報告されましたが、フォームに寄せられた貴重な情報をどのように検証に活かすのか、その概要をどのように公表するのかについても、明らかにされていません。
第三者委員会が当調査団の要望や実態解明を求める市民の声に応える形で独自の調査を進めていることには敬意を表しますが、桐生市が長年、続けてきた生活保護制度の違法・不適切運用の全容はまだ大部分が明らかになっておらず、解明に向けた端緒がようやく切り開かれた段階にあると言わざるをえません。
桐生市と第三者委員会は、第三者委員会による検証を年度末の今年3月をもって終了する方針を明らかにしていますが、半減の要因など問題の根幹に関わる点を曖昧にしたまま、「期限ありき」で報告書をまとめることはあってはなりません。
当調査団として、改めて以下の事項を緊急に要望いたします。
なお、桐生市福祉事務所には2014年と2017年の2度、国の監査が入ったことが明らかになっていますが、この点について厚生労働省社会・援護局保護課自立推進・指導監査室の担当者は今年1月21日、全国生活と健康を守る会連合会との交渉の場で「(国の監査で)同様の指摘が続いてしまって、結果として改善が図られていなかった今回の不適切な事案が発生してしまったということは、国としても責任があると思っておりますし、重く受け止めております」と発言しました。
桐生市の違法・不適切対応の実態解明は、国の生活保護行政のあり方にも深く関わる問題であり、厚生労働省も注視しているということを付言させていただきます。
【記】
1 第三者委員会として生活保護世帯が半減した理由についての判断を明らかに示すこと。
当調査団は桐生市に対し、生活保護世帯が10年間で半減した理由を具体的に説明することを求めてきましたが、市は依然として「第三者委員会で本市の生活保護行政を検証していただいている状況ですので、現時点で判断することは難しい」と説明を拒んでいます(当調査団の要望書に対する2月4日付け回答)。
半減の原因の究明がなければ、有効な再発防止策を提案することはできません。第三者委員会として生活保護世帯が半減した理由についての判断を明らかに示すことを求めます。
2.第三者委員会として「水際作戦」の存否に関する事実認定をおこなうこと。
生活保護の申請権侵害(いわゆる「水際作戦」)が疑われる事案が多数あったことは群馬県による特別監査でも明らかになっており、県地域福祉課の米沢孝明課長もそのことが「過去10年間の減少要因の一つになっている」との見方を示していました(2024年6月21日、群馬県庁における記者レク)。
宮地敏郎保健福祉部長は昨年12月19日の桐生市市議会定例会において、「水際作戦」の存在を認めるのかという渡辺ひとし市議の質問に対し、「第三者委員会で議論がされており、現時点では判断するのが難しい」と答弁しています。
県からも違法運用の疑いを持たれている問題について市が判断を留保することは無責任極まりないことですが、部長の答弁は「水際作戦」の存否に関する事実認定を第三者委員会の検証に委ねたことを意味します。
市から判断を委ねられた第三者委員会はすでに実施した事実聴取に加え、「事案1・2・3」以外の生活保護利用者・元利用者からの事実聴取を実施する等の調査を進め、「水際作戦」の存否に関する事実認定をおこなってください(必要があれば、当調査団が当事者を紹介することも可能です)。
3.桐生市独自の「生活保護開始決定時の決裁慣行」について検証をおこなうこと。
「現役職員からの事実聴取」結果(資料15-2)では、福祉事務所の生活保護業務に関して「不適切なものがあった」との回答が全体の62%を占めていました。また、「厳しい指導をした管理職」がいたと指摘する意見の中には、「生活保護開始決定時の決裁慣行の重圧、ハラスメントまがいの上司の態度、保護開始とならない対応を推奨するかのような雰囲気など」があったとの記述もあります。
この「開始決定時の決裁慣行」の具体的内容については、吉野委員長が第7回会議の終了後に行われた記者との質疑応答でも、詳細は述べませんでした。
その一方、「ハラスメントまがいの上司の態度」に関連して、「例えば一度決裁を受けようと思って行っても『これが足りない』ということでもう一度調査をしなければならない。そういったことが反復される」という記述があったことを認めています。
これらの証言は桐生市が生活保護の開始を決めるプロセスにおいて、他自治体とは違う独特の仕組みを設けていたことを示唆しています。
第2回第三者委員会会議(2024年5月24日)で示された「新規開始時チェックリスト」(資料12-2-1)には、「開始の決定調書は所長決裁で持ち回りで処理 ※ケース診断会議記録票と証拠書類(入院意見書や賃貸契約書等、保護費にかかわる資料)を添付」との記述があります。通常、他の自治体では生活保護の開始にあたって、全件でケース診断会議をおこなうことはありませんが、桐生市では全件でケース診断会議を開催した上で、持ち回りで決裁処理をしていたことが推察されます。
職場に「保護開始とならない対応を推奨するかのような雰囲気」があり、職員が上司から生活保護開始の決裁を受けようとしても、「ハラスメントまがい」の態度を示されて、差し戻されるということが「反復される」ため、業務を遂行しようとする職員に「重圧」がかかる。職員の証言からは、市において生活保護の開始件数を抑制するためのシステムが重層的に構築されていたことが浮かび上がります。
「開始決定時の決裁慣行」の具体的な中身及び、それがいつ、どのような経緯のもとで導入されたのかについて、第三者委員会は更なる検証を進めてください。
4.警察官OBの役割と導入の経緯について検証をおこなうこと
生活保護の申請・開始の減少に警察官OBが関与していた疑いについても解明がなされていません。
当調査団の調査で、桐生市では生活保護新規面接相談のほぼ全件に警察官OBが同席していることが明らかになっています。また、初回相談や初回申請時に相談員(警察官OB)ではなく就労支援相談員(警察官OB)が同席している事例も複数件あることが判明しています。
市は警察官OBを配置した理由について、市職員OBの退職後、「地域住民と接する機会が多く、相談業務のノウハウと経験実績のある警察OBの紹介」を群馬県警に依頼したと説明しています(当調査団の要望書に対する2月4日付け回答)が、就労支援相談員の枠に暴力団対応経験がある退職警察官の紹介を依頼していた理由や、最大時4人まで警察官OBを増員していた理由は明らかにしていません。
第三者委員会は警察官OBが導入された当時の管理職やOB本人に対する事実聴取をおこない、警察官OBの業務実態と導入の経緯について調査をしてください。
5.認印の不正使用に関する追加調査をおこなうこと
桐生市において福祉課で保管されていた認印が1948本あり、現金支給や保護費の返還金・徴収金の徴収等において受領印を職員が使用していた経緯が明らかになりました。今年1月28日には、保護費の受領簿の印鑑欄に同姓の他人の印鑑が無断に押印されていた問題に関して、職員2名への刑事告発が群馬県警に受理されるという事態にまで至っています。
桐生市の「生活保護業務における内部調査チーム」は現金領収簿への押印に関する調査結果(資料13-1)を公表しましたが、辞退届、取下届及び境界層却下時に使用された扶養届については、受領印について保管印鑑が使用されたかについての調査を実施していません。
桐生市での辞退・取下件数は近隣他市に比べて極めて多く、境界層却下に不適切な取り扱いがあったことはすでに明らかになっています。このため、これらの書面についても全件目視確認を行い、保管印鑑の使用がなかったか調査して、その結果を公表することが求められています。
市や第三者委員会は追加調査を実施しないという方針を示していますが、辞退届、取下届及び境界層却下時に保管印鑑が使用された可能性は検証する必要がないとお考えなのでしょうか。
第三者委員会は市に対し、認印の不正使用に関する追加調査を要望してください。
6.金銭管理団体の関与について更なる検証を進めること
第三者委員会による「金銭管理を行っていた団体からの事実聴取」(資料15-2第2)では、「民間団体A」及び「民間団体B」が桐生市福祉事務所から「連絡」や「相談」を受けて、相談者と面談し、金銭管理契約につなげていたことが明らかになりました。
A、B及び桐生市社会福祉協議会の3団体は、いずれも契約は生活保護利用者本人と合意したものだと主張しておりますが、市は生活保護開始時に利用者と団体を庁舎内で引き合わせていた例があることを認めており、利用者にとっては団体と金銭管理契約を結ぶことが生活保護利用の前提だと受け取らざるをえない状況がありました。市が自由意志による解約が可能である旨を利用者に周知し始めた昨年4月以降、解約を選ぶ人が相次いでいることは、当初の契約が本人の意に反するものであったことの証左になっています。
桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会設置条例では、第三者委員会は「客観的かつ公正な第三者の立場から」検証をおこなうと定められています。生活保護世帯半減の要因の一つとも指摘されている金銭管理団体の関与に関して、団体側のみからヒヤリングをおこない、もう一方の契約当事者である利用者の声を聴かないのは公平性に著しく欠ける行為です。
第三者委員会は、金銭管理団体と契約を結んでおり、解約に至った生活保護利用者・元利用者からのヒヤリングを実施してください(必要があれば、当調査団が紹介することも可能です)。
また、市福祉事務所と各団体の関わりが始まった時期や経緯についても検証してください。
7.「外部からの情報提供フォーム」に寄せられた情報の活用方法を明らかにすること
第三者委員会は「外部からの情報提供フォーム」に寄せられた多くの貴重な事例を報告書にどのように活かすのか。連絡がとれる情報提供者にヒアリングを実施するつもりがあるのかどうか。事例の概要をどのような形で公表するのかを明らかにしてください。
8. 第三者委員会の期限を延期すること
生活保護制度の違法・不適切運用の全体像を明らかにするためには、上記の1~7を実施することが不可欠です。
7点全てを今年度末までに実施することは時間的に不可能であるため、市と第三者委員会は期限の延長に向けた協議を早急に始めてください。
以 上
