6月19日、生活保護問題対策全国会議とつくろい東京ファンドは「足利市における議員活動に対する違法な注意処置の撤回と生活困窮者に対する適切な支援体制の構築を求める意見書兼公開質問状」を足利市及び足利市議会に提出しました。
足利市における議員活動に対する違法な注意処置の撤回と生活困窮者に対する適切な支援体制の構築を求める意見書兼公開質問状PDF
以下に全文を貼り付けます。末尾の(注)では、足利市議会政治倫理審査会の資料へのリンクも貼っています。
私たちの意見書・質問状に対し、足利市及び足利市議会がどのように対応するか、ご注目ください。
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2026年6月19日
足利市における議員活動に対する違法な注意処置の撤回と
生活困窮者に対する適切な支援体制の構築を求める意見書
兼公開質問状
栃木県・足利市議会 議長 斎 藤 昌 之 殿
栃木県・足利市 市長 早 川 尚 秀 殿
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 弁護士 尾 藤 廣 喜
一般社団法人つくろい東京ファンド
代表理事 稲 葉 剛
私たちは、生活保護制度の充実や生活困窮者の支援などにとりくむ市民団体ですが、今般、貴市議会及び貴市に対し、以下のとおりの意見を述べるとともに、末尾記載のとおりの公開質問を行います。ご多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが、本意見書兼公開質問状に対する回答を2026年7月末日までに、末尾記載の連絡先あてにお送りいただくようお願いいたします。なお、回答の有無及び内容については、私たちのホームページなどで公開させていただきますので、予めご承知おきください。
第1 意見の趣旨
1 足利市議会は、尾関栄子市議及び鳥井康子市議に対する「議長の注意」処置を撤回すべきである。
2 足利市(社会福祉課)は、ホームレス状態又は所持金のない生活困窮者に対する支援体制が整備されていなかったことを反省し、即日保護の開始、つなぎ資金の貸与、一時生活支援事業等の支援体制を一刻も早く構築すべきである。
第2 意見の理由
1 はじめに
栃木県足利市議会の斎藤昌之議長は、2026年6月定例会初日の2日、尾関栄子、鳥井康子両市議に対し、「不適切な発言や強い口調で対応を迫り、市職員に大きなストレスと精神的な苦痛を与えた」「市職員の公正な職務執行を妨げず、ハラスメントのない節度ある対応を徹底するよう強く求める」などと注意したと報じられている (注1)。
これは、両市議が昨年9月、市内で車中泊を続けて体調を崩した50代男性の生活保護申請を補助し、土曜日に市役所に電話し、平日の窓口終了後に所管課で急迫時の対応を要求するなどしたことが、「足利市議会議員の政治倫理に関する条例」(以下「本件条例」という。)3条3号が定める「市の職員の公正な職務執行を妨げ・・・ないこと」及び同条6号が定める「他者へのハラスメント行為、誹謗中傷その他の人権侵害のおそれのある行為をしないこと」という政治倫理基準の遵守義務に反するものとして、本件条例施行規程第8条2号が定める「議場における議長の注意」の処置がなされたものと理解できる (注2)。
しかしながら、以下述べるとおり、上記の注意処置は、生活保護法及び本件条例の解釈・適用を誤った違法なものであり、自治体の福祉行政として本来なすべき対応を棚に上げて、適正な議員活動を行った両市議に責任を転嫁するものといわざるを得ない。
2 足利市社会福祉課と両市議の言い分
同市社会福祉課の報告書は、両市議が、①昨年9月20日(土)、守衛室に電話し、同課職員の折り返しに対し、同日の申請手続きを訴えたこと、②22日(月)午後5時半、勤務時間外に同課に入室したこと、③この際、所持金がない男性へのつなぎの現金支給を求め、不可能と伝えられると「福祉事務所の存在意義を問われる」と繰り返したこと、④24日、男性が受診した医療機関の請求書を一方的に置いていったこと、⑤25、26日には男性に対する面接時に議員が同席し「無言の圧力をかけてきた」ことなどを「不当要求」としている (注3)
一方、両議員によると、男性は昨年6月ごろ、名古屋市から足利市に来て就労したが、8月に新型コロナウイルスに感染して失業し、9月上旬から車中泊を続けていた。同月19日(金)夜、男性から鳥井市議にひどい頭痛を訴える相談があったが、男性には糖尿病の持病、2回の脳梗塞(こうそく)の既往歴もあり、コロナ感染後でもあったことから、鳥井市議は、「命に関わる」と判断し、20日に無料低額診療を受診させた。同市議は、男性の状況が「急迫保護」に該当すると考え、閉庁日でも生活保護担当職員と連絡がとれる体制であることを承知していたため、代表番号に電話して担当職員からの折り返し連絡をもらった。「今日、申請することはできないか」と質問したところ無理であると言われたため、22日(月)に窓口に行く旨を伝えて電話を終えた。
同月22日午前9時、鳥井議員は男性の生活保護申請に同席し、申請が受理されたことを見届け、同日午前10時から午後4時59分まで決算審査特別委員会に出席した。同委員会終了後、鳥井市議が男性に連絡したところ、宿泊場所や当座の生活費などの対応が何らなされていないことが分かったので、両市議は、男性の到着を待って午後5時半から社会福祉課を訪問した。両市議は、寝起きする場所もなく所持金も尽きている男性に急迫保護等の具体的な支援をするよう求めた。しかし、社会福祉課職員が、「できない」との対応に終始したため、鳥井市議は「福祉事務所の存在意義を問われる」と述べた (注4)
3 評価
生活保護法7条但し書きは、「要保護者が急迫した状況にあるとき」は、職権で「必要な保護を行うことができる」と定めている。同法立法時の担当者(厚生省保護課長)であった小山進次郎は、「急迫状況」とは、「生存が危うくされるとか、その他社会通念上放置し難いと認められる程度に情況が切迫している場合」というとしている (注5)。男性は、車中泊を強いられていて所持金もなく、糖尿病の持病、2回の脳梗塞の既往歴もあってコロナ感染後で頭痛を訴えていたのであるから、両市議が男性は急迫状況にあると考えたのには十分な理由があり、本来、即日保護開始することが望ましい事案であったといえる。仮に、即日保護開始が実務的に困難なのであれば、多くの自治体がそうしているように、保護開始決定までの「つなぎ資金」の貸付、生活困窮者自立支援法に基づく一時生活支援事業として借り上げホテル等の一時的宿泊場所の提供等が行われてしかるべきであった。
しかるに、本来、9月20日(土)に生活保護申請を受理することも可能であったのに、社会福祉課担当職員が、これを無理であるとして断ったこと自体が問題である。しかも、同月22日(月)になってようやく申請を受理したものの、男性の急迫状況を把握しながら、保護申請を受け付けただけで何ら具体的な支援策を講じなかったというのであるから、まさしく「福祉事務所の存在意義を問われる」事態である。「時間外になったのは確かだが、時間内にしっかり対応していれば、訪れる必要もなかった」(注6) と鳥井市議が述べるのも当然である。
そもそも、極度の困窮状態にある男性に対し適切な支援策を講じなかった社会福祉課職員の職務執行の在り方に問題があったのである。このような場合に、住民の窮状に寄り添い職員らに対して適切な対応を求めることは地方議員としての本来的職責である。両市議の行為は、むしろ「市民に信頼される民主的な姿勢の発展に寄与」するものでありこそすれ(本件条例1条)、これをもって、「市の職員の公正な職務執行を妨げ」たとか(同条例3条3号)、職員に対する「ハラスメント行為、誹謗中傷その他の人権侵害のおそれのある行為」(同条例3条6号)などと評価することは到底できない。
このような評価が横行すれば、足利市のみならず全国において、住民の権利を実現するために生活保護をはじめとする福祉制度の申請同行等を行う地方議員の活動を萎縮させるおそれがある。長年にわたって、こうした地方議員の活動を支援してきた私たちとしては、決して看過することができない。
この点、かつて奈良県香芝市において、市民の窮状に寄り添い生活保護申請に同席した議員について、同市議会の議長が、「政治倫理条例上問題があり、こういう行動は今後議会に報告して貰わなければならない」と発言したことに、当該議員が「政治倫理条例の何条に入っているのか」「こんなことに圧力をかける方が議員として問題だ。」と発言したところ、この発言が議長を侮辱し、名誉を毀損するものであるとして、同市議会が、一方的に作成した陳謝文を読み上げるよう求め、当該議員がこれを拒否したところ、同市議会への出席停止処分を行った事件があった。この事件については、2024年1月16日、奈良地方裁判所が、同市議会の出席停止処分は違法であるとして、香芝市に対し、処分を受けた議員への損害賠償を命じている(同年8月28日大阪高裁判決にて確定)。そして、香芝市は、大阪高裁判決に先立つ同年8月16日、生活保護の申請に関する事前相談及び受付時に市議会議員の同席を認める旨、従来の対応の見直しを公表している (注7)
このように、地方議員が生活保護申請者の窮状に寄り添い、生活保護法上の権利実現に努めることは、むしろ議員として当然になすべきことであり、政治倫理条例違反になどなるはずがない。
4 結語
以上述べたところから、足利市議会議長が両市議に対して行った議場における注意の処置は、本件条例の要件を欠くものであり違法であるから、撤回されるべきである。
また、同市が、本来行うべきことは、ホームレス状態で所持金のない極度の生活困窮者に対する支援体制が何ら整備されていなかったことを反省し、即日保護の開始、つなぎ資金の貸与、一時生活支援事業等の支援体制を一刻も早く構築することである。にもかかわらず、正当な議員活動を行った両議員に責任を転嫁し、市議会議長による注意処置を行うことで幕引きを図ろうとするのであれば、「議員の政治倫理の確立を図り、もって市民に信頼される民主的な姿勢の発展に寄与すること」を目的とする本件条例の精神に反するものといわざるを得ない。
よって、私たちは、意見の趣旨のとおりの意見を述べるとともに、以下のとおり、公開質問を行う次第である。
第3 公開質問事項
1 足利市議会及び足利市(社会福祉課)に対する質問事項(共通)
貴市社会福祉課職員が、2025年9月22日、男性が車中泊(ホームレス)状態で所持金もない状態であることを把握しながら、保護申請を受け付けただけで、即日何ら具体的な支援策を講じなかったことは適切であったと考えていますか。理由も併せてお答えください。
2 足利市議会に対する質問事項
⑴ 両市議のいかなる行為が、いかなる意味で職員の「公正な職務執行」を妨げたと評価したのですか。
⑵ 両市議のいかなる行為が、同市職員のいかなる「人権」を侵害するおそれがあると評価したのですか。
⑶ 上記の評価にあたって、1で述べた市の対応の適切性を考慮しましたか。考慮したのであれば、どのように考慮したのか、考慮しなかったのであれば、なぜ考慮しなかったのかもお答えください。
3 足利市(社会福祉課)に対する質問事項
貴市においては、ホームレス状態又は所持金のない生活困窮者に対し、以下の諸対応を行っていますか。行っているのであれば、その具体的内容(制度の実施要綱、過去3年間の実施実績等)をお答えください。行っていないのであれば、その理由と今後行う予定があるか否かを各対応ごとにお答えください。
⑴ 即日又は数日での保護開始
⑵ 保護申請後、決定時までの「つなぎ資金」の貸与
⑶ 生活困窮者自立支援法に基づく一時生活支援事業(借り上げホテル等の斡旋など)
⑷ その他の対応策
以 上
(注1)東京新聞2026年6月3日配信記事
(注2)足利市議会議員政治倫理審査会の令和8年5月21日付け審査結果報告書
(注3)末吉利啓ら作成の令和8年2月20日付け審査請求書添付の社会福祉課作成にかかる2025年12月25日付け「市議会議員による『不当要求事案』について」、毎日新聞2026年3月16日配信記事
(注4)第3回政治倫理審査会・資料2-1(尾関議員陳述書)、2-2(鳥井議員陳述書)、毎日新聞2026年3月16日配信記事。
(注5)小山進次郎「改訂増補生活保護法の解釋と運用」122頁
(注6)毎日新聞2026年3月16日配信記事。
(注7)令和6年8月16日付け香芝市報道資料「生活保護の申請に関する事前相談及び受付時における市議会議員の同席について」
