本日(5月25日)、東京でも緊急事態宣言が解除されることになりましたが、この間、つくろい東京ファンドでは、緊急事態宣言の影響で行き場を失ったネットカフェ生活者の緊急支援に取り組んできました。

相談用のメールフォームを開設した4月7日から現在まで、私たちに寄せられたSOSは160件を越えています。

私たちは、メールで一人ひとりの状況をうかがって公的支援の情報をお伝えしながら、緊急性の高い方には個別にアウトリーチをおこない、「東京アンブレラ基金」を活用した緊急の宿泊支援や生活保護申請同行等の支援を行なってきました。

この間の緊急支援に取り組んできたスタッフが、活動の中で気づいた通信の問題について記事を書きましたので、ご一読ください。

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ネットカフェ生活者と携帯電話

若い女性のSOSに応えて生活保護の申請に同行した。

彼女が今年から始めた憧れの仕事は、新型コロナ感染拡大防止の休業要請を受けて、なんの補償もないまま「当面お休みして」と休業に入り、先の見通しは一切分からない。会社からその後、連絡も来ない。ほぼ同時に家を失ったが助けてくれる人はいない。ネットカフェで数日凌いだのちに所持金が尽きて公園で夜を過ごした。節約のために割りばしをまとめ買いし、ドラッグストアで安売りしているカップラーメンで空腹を満たしてきた。私と話しているうちに緊張が解けたのか、タオルに顔を押し付けてワンワン泣いた。

生活保護申請をしたのはいいが、申請後に滞在する一時待機場所に必要不可欠なものがあった。Wi-Fiだ。

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう?まずは家でしょ。」と、かつての私だったら思ったかもしれない。しかし、大きな荷物を持ち歩き、強い風が吹きつける公園で過ごし、カップラーメンをすすりながら、崩れてもおかしくない彼女の精神を支えてきたのは、世界でたった一人の大事な「味方」の存在だった。励ましてくれるその人とライン電話やフリーメールで繋がっていたおかげでここまで何とか持ちこたえた。

彼女のSOSもネットを通じて私達に運ばれた。

彼女の苦境を知ったツイッター仲間が、大阪の支援団体をネットで見つけ出して紹介し、大阪を経由したSOSが私達に届けられた。

コロナ禍におけるネットカフェ休業で、ネットカフェ生活者が大量に溢れた。そのSOSに応える中で見えてきたのは、彼等にとって携帯電話(スマホ)がいかに大事かということだった。それは、ほとんど命綱といっても良かった。

つくろい東京ファンドはネットカフェ休業要請が出た時に、相談フォームを作りネット上で拡散し、同時に電話相談も開催した。電話相談での反応がほとんど無かったのに比べ、ネットのフォームを使ったSOSが連日次から次へと舞い込み、事務局の佐々木と稲葉は対応に追われた。

そこで初めて分かったのは、ネットカフェ生活者の多くはすでに通話料金が払えなくなって、通話を止められているということ。Wi-Fi環境で使える無料メールやアプリだけが、彼らと外の世界を繋ぐ唯一の手段となっている事実だった。

彼らは充電する場所の確保にも苦労していた。これまでならファストフード店などで100円のコーヒーだけ買えば、携帯の充電Wi-Fiの利用が可能だった。それが飲食店の休業によって電源を探すことに苦労することになる。

実際、こんなことがあった。

SOSを受けた事務局スタッフが、待ち合わせ場所を決めるべくメールでやり取りをしていた。まさにあと一歩というところで相談者からの連絡が途絶えた。

何日かして、つくろい東京ファンドに弁護士から電話が入る。待ち合わせ場所を決める直前にスマホの電源が切れてしまった相談者は、慌てふためいて電源を求めてさまよい歩き、いけないことと知りつつも切羽詰まってしまったのだろう、休業中の店舗に忍び込んで逮捕されてしまったということだった。事務局スタッフの佐々木が悲痛な声を上げて頭を抱えた。あとちょっとだったのに、こんなことになってしまった。申し訳ないと。

台東区役所では、「スマホの充電をさせてくれ」と福岡から上京した初老の男性が生活保護の窓口で頼み込んで、にべもなく断られていた。「大事な電話が掛かってくるんだよ!頼むよ」

公園で夜を過ごした翌朝で、くたくたの背広が埃っぽく汚れ、シャツがズボンからはみ出していた。大事な電話とは、前住所で受けていた生活保護廃止の知らせ。その連絡がくれば、台東区で生活保護の申請ができる。しかし、役所では「他のみんなにも等しく貸さなくてはならなくなるから」という理由で頑として充電させなかった。

先の若い女性はWi-Fi環境の整った長期滞在型のビジネスホテルにご案内した。今後できるだけ早く自分のアパートに移ってもらい、仕事が再開されたときにスムーズに職場に戻れるよう支援したい。

ネット世代の人達を支援する場合、ネット環境やその必要性を軽視してはならないと今回は思い知った。

福祉事務所からアパートに入るまでの期間滞在する場所にもWi-Fi設定は必要になってくるだろうし、また、路上生活を余儀なくされる方たちで携帯電話を辛うじて所持している方々のために、どんな機種でも充電できるポートのような環境を、各福祉事務所に作れたらいいのにとも思った。難しいことではない筈だ。福祉事務所が相談者に来て欲しくないと思っているのなら別だが。

携帯電話はいまや贅沢品などではない。

生きていくための命綱であり、完全に孤立した人が外部や仕事と繋がる唯一の手段なのだ。(小林美穂子)