昨年11月20日、目を疑うような記事が報道されました。
群馬県桐生市が生活保護受給者の50代男性に、生活保護費を1日1,000円ずつ窓口で渡され、全額支給していないというものでした。1,000円はハローワークで求職活動をしたという証明を見せると渡されたと男性は証言しています。
分割支給は特別な事情がある場合などに適用されることはあり、違法ではありません。しかし、生活保護費を全額支払わないなどというケースは前代未聞ですし、憲法にも生活保護法にも違反する対応です。この男性のケースをきっかけに、その後も桐生市の異様で異常な福祉行政が明らかになっていきます。報道記事を中心にまとめます。(小林美穂子)

桐生市役所

生活保護費を1000円ずつ毎日手渡し 群馬・桐生市「生活指導の一環で適正」 司法書士会が改善要望 (2023年11月20日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/291267

生活保護費「1日1000円では生活できない」と訴えたのに…桐生市は「同意得て分割したという認識」(2023年11月21日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/291431

桐生市で生活保護費一部不支給 自立遠ざける「1日1000円」 50代男性「暮らせない」 司法書士、ほかにも疑われる事例調査 (2023年11月22日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/291541?rct=gunma

桐生市のケースを看過しなかったのが、現場経験者などから構成される有志で形成される「生活保護情報グループ」の皆さんでした。生活保護の運用実態などの情報を配信するSNSアカウントに、桐生市の生活保護率の推移や、保護申請却下・取下率などのデータを公表しましたが、2011年からの10年間で生活保護の利用者数が半減する等、そのデータはやはり異様なものでした。私自身、支援者を取材し、群馬の事情やデータを盛り込んで、以下の記事を書きました。

【独自】「支給額は1日1000円」は、まるで嫌がらせ!生活保護は罰なのか? 憲法・生活保護法を無視した運用を重ねる群馬県桐生市の深い闇(2023年12月8日)
https://www.jprime.jp/articles/-/30198

2023年12月18日、群馬弁護士会、群馬司法書士会、県社会福祉士会、県精神保健福祉士会の4団体は「生存権を守り、適法に生活保護を実施することを求める共同声明」を発表。同日、桐生市市役所で荒木恵司市長の記者会見が行われ、私も参加しました。

2023年12月18日、桐生市による記者会見
12月18日、記者会見で市の対応を「不適切だった」と謝罪する荒木恵司市長

【群馬司法書士会】社会福祉士会・精神保健福祉士会・弁護士会と共同声明 生活保護問題で
https://gunma-shihoshoshi.or.jp/news/2134.html

【桐生市】生活保護業務の改善について
https://www.city.kiryu.lg.jp/kurashi/fukushi/1023289.html

この記者会見で、桐生市保護課は受給者に支給しなかった保護費を「保護課の手持ち金庫に預り」、ケース記録などの公式書類に記録は残しておらず、会計処理上では全額支給していたことにしていたと答えた。桐生市の保護行政は、実に驚きの連続です。

報道されたケースについては、12月中に森山享大副市長と市役所職員で構成される「内部調査チーム」を作り、2024年1月中に外部の人間による第三者委員会を設立すると荒木恵司市長は述べましたが、この会見最後に新たな驚愕の事実が明らかになりました。
それが衝撃の「ハンコ1944本」の存在です。

前代未聞、受給者の認め印1944本 職員が預かり勝手に押印 生活保護不適切支給の桐生市(2023年12月19日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/296771

「預けてもいない印鑑、無断で押された」受給者の女性が訴え 桐生市生活保護問題 市は当初虚偽説明 (2023年12月23日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/297798

そうこうしているうちに、生活保護費不支給の新たなケースが発覚しました。任意の第三者に金銭管理を任せるというケースです。

「一種の経済的虐待」…第三者に生活保護費を管理させる契約を桐生市が受給者に押し付け 不適切支給問題 (2023年12月30日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/298935

昨年、私が1日1,000円しか保護費を支給されなかった男性の記事を書いたところ、過去に桐生市福祉課で酷い目に遭った方から連絡をいただきました。その方の体験は想像を絶する壮絶なものでしたが、同時にこれまでの桐生市のデータの裏付けともなる証言でした。思い出すのも辛い体験を話してくださったことに、心から感謝しています。「もう、誰にもあんな思いをしてほしくない」、その一心で話してくださいました。

【独自】桐生市生活保護課の悪辣極まる水際・恫喝・ハラスメントに保護の辞退届を経験した女性、「9年が経ち、やっと話せるようになった」(2024年1月12日)
https://www.jprime.jp/articles/-/30507

2024年2月16日、東京新聞前橋支局による連載〈砂上の安全網〉がスタートし、大変な反響を呼びます。

〈連載1〉これが生活保護の水際作戦…電気も水道も止められているのに「家族で支え合って」と突っぱねた市職員
https://www.tokyo-np.co.jp/article/309625

〈連載2〉「市を訴えるってこと?」・・・福祉課職員に怒鳴られた娘、尊厳否定され死んだ父 生活保護めぐり心に傷
https://www.tokyo-np.co.jp/article/309878

〈連載3〉生活保護、水際作戦が常態化? 桐生市の「異様さ」がデータで見えた 「最低水準」の背後に何があったのか
https://www.tokyo-np.co.jp/article/310053

〈連載4〉生活保護の「水際作戦」の背景には偏見 国はマイナンバー並みの熱意で「正しい理解」の普及に努めるべき
https://www.tokyo-np.co.jp/article/310183

3月13日には、桐生市の問題を追及してきた反貧困ネットワークぐんまの仲道宗宏司法書士が安田菜津紀さんと佐藤慧さんがMCを務めるインターネットラジオ番組「Radio Dialogue」に出演。桐生市福祉事務所の問題について解説し、大きな反響を呼びました。

仲道宗弘さん「どうなってるの?桐生市の生活保護」Radio Dialogue 151(2024/3/13)
https://youtu.be/zFgGF50bGXE?si=6KV2oOkvpK7NUs1o

荒木市長が記者会見で「1月中に設置する」と言っていた第三者委員会の発足は遅れに遅れ、3月15日にようやく選定された委員の発表が行われました。
 
桐生市、生活保護不適切運用受け 第三者委の4委員決定(3月16日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/315559

しかし、4人の委員中、2人は群馬県健康福祉部長を務めたことのある人物であり、1人は桐生市が2018~19年に設置したシティブランディング戦略会議で委員長を務めた研究者(専門は生活保護ではなく公共政策論)でした。
桐生市が長年にわたっておこなってきた違法対応・人権侵害では、市を監督すべき立場にありながら是正できなかった群馬県健康福祉部の対応も問われています。県の歴代の担当者や、過去に市政と関わりのあった人物を選ぶという委員の選定に疑問の声が出ています。

相次いで報道がされている中、これまで長い間問題となっていた恫喝や厳しい水際(追い返し)も一旦はおさまっているようです。しかし、これまでの対応や、過去10年余りで保護利用者を半減した原因をしっかり検証しないままでは、改善は見込めないでしょう。

「桐生市生活保護違法事件全国調査団」結成!

生活保護問題に取り組む全国の研究者、法律家、支援団体関係者は、「桐生市生活保護違法事件全国調査団」(団長:井上英夫 金沢大学名誉教授・日本高齢期運動サポートセンター代表理事)を結成し、3月4日、桐生市と群馬県に対して公開質問状を提出しました。

桐生市への公開質問状(PDF)

群馬県への公開質問状(PDF)

調査団は4月4日~5日に現地調査と集会・記者会見などをおこなう予定です。
4月5日(金) 13時~15時には、桐生市市民文化会館小ホールで、「桐生市の生活保護行政をよくする市民集会・シンポジウム」を開催します。近隣の方はぜひお越しください。詳細は下記のPDF、画像をご覧ください。

「桐生市の生活保護をよくする市民集会・シンポジウム」チラシPDF

桐生市が長年、おこなってきた違法対応・人権侵害の全容を解明し、誤った生活保護の運用を改めさせるための取り組みにご注目いただけるとありがたいです。

よろしくお願いします。