群馬県桐生市の福祉事務所において、「保護費を1日千円に分割し、満額を渡さない」、「生活保護決定後も長期にわたり保護費を渡さない」等、数々の違法行為・人権侵害が発覚してから、4ヶ月以上が経過しました。3月下旬以降の動きをまとめました(文責:稲葉剛)。

今年春、生活保護問題に取り組む全国の研究者、法律家、支援団体関係者により、「桐生市生活保護違法事件全国調査団」(団長:井上英夫 金沢大学名誉教授・日本高齢期運動サポートセンター代表理事)が結成されました。つくろい東京ファンドの稲葉剛と小林美穂子も、この「調査団」に参加しています。

「調査団」がさっそく桐生市と群馬県に公開質問状を提出し、本格的な調査活動に入ろうしていた矢先、3月20日に反貧困ネットワークぐんま代表の仲道宗弘司法書士(反貧困ネットワークぐんま代表)が急逝されるという悲しい出来事が起こりました。

【3月22日】生活保護問題で活動 仲道宗弘さん死去 群馬:朝日新聞デジタル

https://www.asahi.com/articles/ASS3P454SS3PUHNB00DM.html

【3月23日】生活困窮者の支援に力を尽くした司法書士仲道宗弘さんが死去 群馬司法書士会副会長:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/316812

仲道さんは長年、群馬県内で生活困窮者支援の活動に取り組み、桐生市福祉事務所による非道な対応により被害を受けられた方々の相談にも対応されてこられました。仲道さんの活動がなければ、桐生市の問題が世に知られることもなかったと思います。
心からお悔やみを申し上げます。

仲道さんは、亡くなられる1週間前に出演されたインターネットラジオ番組で、桐生市の生活保護行政の問題点について詳しく解説されていました。この番組のアーカイブは今でも聴けるので、ぜひ多くの方にお聴きいただければと願っています。

【3月13日】Radio Dialogue ゲスト:仲道宗弘さん「どうなってるの?桐生市の生活保護」| Dialogue for People
https://d4p.world/news/25370/

桐生市の生活保護行政を検証する第三者委員会の設置は遅れに遅れましたが、3月になってようやく委員が決まり、3月27日に第1回目の会合が開催されました。

桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会 第1回会議資料
https://www.city.kiryu.lg.jp/shisei/jinji/1023559/1023560/1023895.html

第三者委員会のスタートは、地元紙を含め、各メディアでも報道されました。

【3月28日】桐生市の生活保護問題 第三者委員会がスタート:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASS3W7JHYS3VUHNB00F.html

【3月28日】桐生市の生活保護不適切支給 第三者委が初会合 記録の記載1件「問題」 文書残らず検証困難か :東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/317821

【3月28日】生活保護費の不適切支給問題 第三者委が初会合 群馬・桐生市 | 上毛新聞社のニュースサイト
https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/439699

【3月28日】受給者数半減の原因、究明を 第三者委員会が初会合 桐生市生活保護業務不適切対応問題 -桐生タイムス
https://kiryutimes.jp/article/A_ufLGHl/

報道によると、荒木恵司市長は会議の冒頭、「本市の生活保護行政を生まれ変わらせるため、忌憚のないご意見をお願いしたい」と述べたそうです。

「生まれ変わらせる」ほどの改革が必要な行政運用とは、どのような惨状だったのでしょうか。
桐生市の生活保護行政の問題は、一部の職員が引き起こしたものでも、一時的な問題でもなく、長年にわたって組織全体によって構造的に作り出されたものです。
その問題は多岐にわたっており、2011年からの10年間で生活保護の利用者数を半減させた理由やその具体的な手口など、未だに明らかになっていない点が多々あります。

荒木市長は「生まれ変わり」を語る前に、長年続けられてきた違法運用・人権侵害の全容を明らかにし、膿を出し切ることに注力すべきです。
そのためにも、最も事情を知ると見られる前・保健福祉部長の助川直樹氏(昨年12月末に総務部参事に異動)を第三者委員会の場に出席させ、説明をさせる責任があると考えます。

第三者委員会の第1回会合では、市の内部調査チームによる調査状況も報告されました。保護費の分割支給については、14件あったとの結果が発表されましたが、このうちケースワーカーが分割支給を「ケース記録」に記載していたのは1件だけだったことも明らかになりました。

残り13件は、書面上は全額を支給していたことにした上で、渡さなかった保護費は職員が手提げ金庫に入れ、日払い・週払い・隔週払い等の対応をしていました。

桐生市福祉事務所は、こうした運用の違法性を認識しており、群馬県の監査などで外部に発覚することを防ぐために、あえて書面に残さないという選択をしていた疑いがあります。

また、福祉事務所が保管していた印鑑の数は、当初、「1944本」と発表されていましたが、数え直したところ、「1948本」であったということも、この日の会議で明らかになりました。

内部調査チームは、今後、「『水際作戦』『恫喝』と指摘されるような相談者対応がなかったか、上司から保護件数を抑制するような指示がなかったかなど、生活保護受給者が 10 年で半減していることについて調査予定」(第1回会議資料より)とのことです。

「水際作戦」や「職員による恫喝」、「辞退届の強要」が日常的に行なわれていたとの証言は複数出てきていますが、被害者の多くは市の報復を恐れ、沈黙を強いられているため、報道されている被害は「氷山の一角」に過ぎないと推察されます。
 
【12月29日】社会リポート/生活保護の水際作戦 常態化/5人がかり怒鳴られ/群馬・桐生市
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2023-12-29/2023122911_01_0.html

【1月12日】桐生市生活保護課の水際・恫喝・ハラスメント「9年が経ちやっと話せる」女性の告白(週刊女性PRIME)
https://news.yahoo.co.jp/articles/47212d69b70739fc69af41466f2cf4ccb2621645

第三者委員会による実態解明を促すのと共に、外部からも徹底した解明・追及を求めていきたいと思います。

「調査団」は4月4日~5日に桐生市・群馬県への要請と集会・記者会見などをおこないます。

4月5日(金)午前には「生活相談フードバンクin桐生」が桐生文化会館小ホール入口で開かれ、弁護士らによる生活・法律相談会も開催されます。

5日(金) 13時~15時には、同会館小ホール入口で、「桐生市の生活保護行政をよくする市民集会・シンポジウム」が開催され、集会終了後の15時20分からは同じ場所で「調査団」による記者会見もおこなわれます。

集会の詳細は下記の画像、PDFをご覧ください。近隣の方はぜひお越しください。

「桐生市の生活保護をよくする市民集会・シンポジウム」チラシPDF

「調査団」が3月4日に桐生市に提出した公開質問状への回答はすでに受け取っており、現在、「調査団」で分析を進めているところです。この公開質問状とその回答についても、5日の集会で報告する予定です。
ぜひご注目ください。