施設建設反対運動が吹き荒れる時代に

2019年2月、南青山の児童養護施設建設に地域住民が反対し、ニュースとなりました。
そのニュースを見ていて、ついに児童養護施設にまで住民が反対するようになったのかと暗澹たる気持ちになったものです。
それまでにも、保育園や障害者グループホームなどの施設建設に地域住民が反対する報道は目にしていました。これらの反対運動に挙げられる主な理由が、「子どもの声が騒音」「町の美観が損なわれる」「地価が下がる」「治安悪化」などです。しかし、反対する人たちも人間である以上、それらの施設が必要であるのは理解しているので、どこかよそでやってくれというご意見のようです。

行政の施設ですら5年の持ち回り

そう考えると、ホームレス支援施設などはもってのほかで、必要であるとすら思ってもらえないのがこの分野。これほど嫌われる施設もなかなかありません。
東京では2000年から都区共同により、路上生活者の就労を支援する宿泊施設「自立支援センター」が開設されています。しかし、この施設は東京23区を5つのブロックに分けた上で、各ブロック1か所に設置されており、ブロックごとに5年の持ち回りで次の区に移転する輪番制をとっています。せっかく作った施設を5年で閉鎖する理由は、住民の反対が強く、加えてどの区でも積極的に受け入れたくないためで、行政担当者はこの方式を「焼き畑農業だ」と自嘲的に呼んでいました。
それどころか、10月12日に日本列島を縦断し、未曾有の被害をもたらした台風19号で、避難所を訪れたホームレスの人たちが、住民票がないことを理由に受け入れを拒まれるという事態がありました。

ホームレス支援団体である私達を地域は受け入れてくれるのか?

練馬区豊玉南に「カフェ潮の路」をオープンすることが決まった時、事務局が一番心配したのは、果たして地域に受け入れてもらえるのだろうかということでした。
ホームレス支援に関わる団体は、どこも多かれ少なかれ地域住民との関係に苦労していますし、物件探しをする際も大家さんの理解が得られずに難航する場合もあります。
どんな時代においてもホームレス支援団体は、控えめに見積もっても嫌われ度上位トップ3に入るのではないかという卑屈な思いと不安を抱えながら、「カフェ潮の路」は果たして地域に許してもらえるのだろうか。地域に根付くことはできるのだろうか?そんなドキドキハラハラなスタートでした。

「介護関係らしい。でもあの長い煙突…何を燃やすのだろう?」

沼袋駅を下車し、歩行者も、バスも、バイクも、車椅子も、老いも、若きも、外国人、そして時々猫も、ごちゃごちゃと行き交う狭い商店街のゆるやかな坂道を上り、昔ながらの魚屋さんや「泳げ!たいやきくん」を流しているだんご屋さんを過ぎると新青梅街道につきあたります。
その先はガクンと店の数が減り、代わりに学校や住宅や病院が立ち並ぶ準商業地域になりますが、更に進んだその先の中野区と練馬区の区境に「カフェ潮の路」はあります。

2017年に改装工事を始めたころ、地域住民の間では「何ができるのだろう」と噂になったそうです。
「介護用品の販売らしい」
「リハビリ施設らしい」
そんな予想が行き交ううちに、建物の一階部分から屋根に届くほどの長い煙突が設置されます。これはコーヒー焙煎機の煙突なのですが、事情を知らないご近所さん達は煙突を見上げ、「…何を燃やすのだろう?」不安はMAXに。
この時点でもちゃんとご挨拶や説明に伺っていなかった私達の落ち度も致命的なのですが、このピンチを救ってくれたのは、ご近所の会社に勤める性格が対照的なお二人でした。
乗員の至らなさから、かなり危うい船出をしようとしていた「カフェ潮の路」。
「船出と同時に座礁」もあり得たそのスタートを、縁の下で支え、忌憚のないアドバイスをくださり、更に道を作ってくださった最大のキーパーソンのお二人へのインタビューをご紹介します。

人がどういう状況に置かれるかは紙一重だと思ってる。

小林:「カフェ潮の路」が大変お世話になっております。
さて、開店前から堀田さん(仮)、南野さん(仮)には、お世話になりっぱなしでした。私もつくろい東京ファンドの事務局の人間も、あまり社交的とは言えず、不義理で不器用な部分が多いので、お二人のお力添えがなかったらとても地域に根付くことはできませんでした。カフェオープンから今日まで、近隣住民の方々皆さんに暖かく支えていただいているのはお二人のおかげです。深く、深く感謝しております。
さて、2017年4月に開店した「カフェ潮の路」が、ホームレス支援の延長線上にあるカフェだと知ったあと、お二人はどのように思われましたか?

堀田: 別に抵抗なかったよ。人がどういう状況に置かれるかは紙一重だと思ってるから。
南野: 必要な活動だとずっと思ってきました。野宿者支援もテレビなどで見て知っていたし、実は若い頃に一度公園に支援の話を聞きに行ったこともあるんです。でも、もう一歩を踏み出させなかった。性格的にボランティアには向いてないと思ったのね。だけど、応援はずっとしたいと思っていました。

小林:「ホームレス支援」といっても、私達「つくろい東京ファンド」ではホームレス状態にある人にまず安心、安全な個室シェルターに入ってもらい、そこを経由して自分のアパートで自立した生活を営んでもらいます。つくろい東京ファンドのシェルターを経由して地域で生活をしている人は今では70人を超え、そんな人たちの孤立を防ぎ、仕事を創出するために「カフェ潮の路」を開きました。
そんなわけで、様々な事情により路上からカフェにやってくる方もチラホラ見えますが、つくろいシェルターの卒業生はほとんどが生活保護を受給し、できる範囲で仕事をしたり、病気の療養をしながら暮らしている人たちです。
堀田さんはカフェの常連さん達とも親しくしてくださいます。時には若い人に悩みを打ち明けられたりしています。
いつだったか、若い常連がバスで堀田さんと乗り合わせ、声を掛けられたことをことさらに喜んでいたことがありました。「普通の人はさぁ、俺なんかに人前で声かけてくれないから」と。

堀田:俺、人を外見で選別してないですよ。
(堀田さんはいつもコーヒースタンドに集まる常連さん達と溶け込んでらっしゃいます)

俺からしてみたら稲葉クン(つくろい東京ファンド代表)も元ホームレスの人も同じ。

小林: 若い人が昼間からカフェに来ているのはどう思われましたか?
堀田:ああ、最初は(生活保護利用者だと)知らないから「仕事行かないで大丈夫なのか?」って聞いたけど、別に深い意味はないよね。仕事してない人間がおかしいわけでもないし、皆が皆仕事してなくてもいい。だって収容所じゃないんだから。税金はそのためにある。仕事できない状態にある人に強制的に仕事をさせても、そんなのうまくいかないよね。

南野:一度ホームレス状態になってしまった人に就労支援とか、技能を教えるような機関ってあんまりないのかしら?

小林:それは公的なサービス含めて各種あるのですが、制度があってもなかなかそれに乗れない人たちが巡り巡って最終的に私達のところに来る場合が多くて、いきなり就労して生活保護を脱するという目標を立てるよりも、その人が抱える生きづらさと共に、低空飛行ながら地域で生き続けるということに目標を設定している感じです。地域で受け入れられ、その場所の居心地が良いと思えれば、時間はかかるかもしれまえせんが、その人の体調は安定していくと思っています。
堀田さんはカフェのスタッフや常連たちに溶け込んでますよね。抵抗感はなかったですか?

堀田:属性で人を見てないから。権威とか興味ないし。親父がそういう人だったんだよね。ストレートでへつらわない。あんまりいい親父とはいえないし、若い頃は反発もしたけど、影響してるかもしれないね。
だから、稲葉クン(つくろい東京ファンド代表)とA君(カフェ常連の元若者ホームレス)は俺から見れば同じ。その方が俺自身が楽なんだよね。

自分の内側の深いところに向き合い、悩む。

小林:南野さんはご自宅で採れた新鮮なお野菜や、いただきものをカフェに分けてくださいます。そのお野菜はカフェにやってくる30人~40人のお腹を満たします。また、いつもお腹を空かせている若者に缶詰めやレトルトを差し入れしてくれたりします。支援団体スタッフでなく、近隣の方に見守られ、気にかけてもらっているという実感を彼らにもたらしてくださっています。

南野:私一人では食べきれないし、せっかくだから食べてもらいたい。でも、それがね、私は堀田さんより上から目線になのかなーって悩んでしまうの。差し上げていいものかどうなのか、いろいろ考えすぎてしまうのよね。考えすぎてどうしていいか分からなくなってしまう。そんな自分をいやらしいと感じてしまったりするの。だから、自分はボランティアには向かないなーって。
私は長年堀田さんと働いているけど、一緒にいても堀田さんのことが分からない。理解できない。

同じ意見を持つ必要はないもの。共感はしなくても尊重はできる。

小林:性格も考え方も全然違うから対話を避けるのではなく、ずっと喧々諤々しながらもお互いを認め合ってる、不思議なご関係ですね。

堀田:同じ意見を持つ必要はないもの。共感はしなくても尊重はできる。全く反対意見を言う人がいても「ふーん、そう思うのか」って思うだけで、腹は立たないよね。カチンとすることはあるし、無口になることはあるけど。
違う考えを持つ人の方が面白いから。みんながみんな俺と同じこと言ってたら気持ちわりぃじゃん。違うから面白い。「違う」ことが好き嫌いに影響することは一切ないね。

小林:すごいですね。私も見習わないとなりません。私も堀田さんと口論っぽくなったことが何度かありましたよね。お客様なのにすみません。でも、嫌いにならないでくださって嬉しいです。
ところで、カフェの常連さんやスタッフで気になる人はいますか?

堀田:スタンドの店員をやっていた小さいおじさん、最近見ないのが気になる。あのおじさんは、稲葉クンと違って、俺が行くと氷少なめにしてたっぷりアイスコーヒー注いでくれるんだ。倍くらい違う(笑)。あと、90歳近いおじいさんはどうしてるの?なかなかあの年であんな元気な人はいないね。80にしか見えないよね。あの人はパステルカラーが好きなんだね。ピンクのシャツに白いパンツでキメてさ。
あと、いつもスタンドに来てる若者とは話が合うんだよ。パチンコの。(笑)

小林:カフェ潮の路の常連さん達は家庭環境や、ホームレスになるまでの経緯でいろんな繋がりが切れて孤立している人が多いのですが、お二人はどのようなつながりの中で生きていますか?

堀田:家族はわりとバラバラだな。妹は海外だし。
彼女と友達と、あと猫が半匹。隣ンちと共有してるからな。

南野:家族と、あと昔の職場の同僚とずっと続いているから、お互いに子育てが終わったから旅行したりしてるわね。でも、ふらっと一人旅に出るのも好き。

小林:お二人のご趣味を聞かせてください。

南野:堀田さんはパチンコ、パチンコ!あと、共同馬主だから馬!(笑)歴史にも詳しいでしょ。

堀田:俺、大学文学部史学科だったからな。

小林:南野さんは?

南野:うーん、あたしはね、温泉が好き。

堀田:あと、俺をいじめること!上司イジメ!(笑)

まるで異なる性格と考え方なのに同じスペースで仕事をし、尊重しあう二人の関係は、とても不思議で、とても魅力的です。こんなユニークな人たちと出会えたことが、カフェ潮の路の運強さだと思わずにいられません。人間は本当に奥深く面白い。そう思わせてくれるのは、カフェのお客様だけでなく、地域の方々でもあります。
私たち自身、地域の方々から多くを学ばせていただいております。

最後に堀田さんに「異質だと言われませんか?」と伺ったら、「自分じゃ分かんねーよ」
という答えが返ってきたので南野さんと二人で笑ってインタビューが終わりました。
堀田さん、南野さん、ありがとうございました。

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