2022年4月1日、東京都杉並区公式ホームページの生活保護制度に関するQ&Aが変更になりました。

よくある質問 生活保護について聞きたいのですが。(1)|杉並区公式ホームページ https://www.city.suginami.tokyo.jp/faq/fukushi/enjo/1003011.html

今年3月末まで、このページ(リンク先)には「親・きょうだい・子どもなど扶養義務者からできる限りの援助を受ける」ことが生活保護の「要件」、「前提」である、という誤った説明文が掲載されていました。

2022年3月31日までの杉並区ホームページ 生活保護Q&A
改訂後の杉並区ホームページ 生活保護Q&A

生活保護法には、親族による扶養は保護に「優先」するという規定がありますが、これは実際に仕送りがあった場合に、その金額を保護費から差し引くという意味でしかありません。扶養が保護の「要件」、「前提」であると書くのは、明確に法律に違反した説明ということになります。

ホームページ改訂後は「要件」、「前提」という言葉が消え、法律通り、扶養が「優先」するという表現に変わりました。

違法な運用を記載したページが削除されたことは一歩前進だと言えますが、杉並区はこの改訂について何も説明をしていません。
私たちは杉並区がこれまでのページの記載が誤っていたことを認めるべきだと考えます。

私たちがこの点を重視しているのは、杉並区が「親族による扶養は保護の要件・前提である」という制度の誤った認識に基づいて、親族への照会を拒む人についても「問答無用」で扶養照会を強行していた「実績」があるからです。

ホームページの記載の問題については、つくろい東京ファンドと生活保護問題対策全国会議が今年2月4日、杉並区に「抗議・要請書」を提出した際に指摘しました。

この申入れは、昨年7月、杉並区福祉事務所が生活保護を申請した50代の男性Aさんが提出しようとした「申出書」(親族への照会を拒否したいという意向を示す文書)の受け取りを拒否し、80代の両親に扶養照会を強行していたことに抗議するものです。

「申出書」の受け取りを拒否し扶養照会を強行した杉並区に抗議・申入れ。
https://tsukuroi.tokyo/2022/02/04/1664/

この問題については、杉並区の区議会でも、ひわき岳区議(立憲民主)、くすやま美紀区議(共産)、奥山たえこ区議(無所属)が追及しましたが、未だ区は過ちを認めず、Aさんご本人や私たち支援団体が求める話し合いも拒否し続ける、という異常な対応が続いています。

この間の経緯は、つくろい東京ファンドスタッフの小林美穂子の記事をご覧ください。

【実録】生活保護申請者の「扶養照会拒否の申出書」を受け取らず、照会を強行した杉並福祉事務所の冷酷(週刊女性PRIME)
https://news.yahoo.co.jp/articles/51b30d7473fbfef13d53b735e3999109fc0ed8a6

【衝撃発言】生活保護申請で扶養照会拒否の申出書を受け取らなかった、杉並区の呆れた開き直り(週刊女性PRIME)
https://news.yahoo.co.jp/articles/9a16be4891ce6852f2317ff783720bde5eb54b4f

今回、ようやくホームページの記載だけが変更になり、法律に反した制度説明が削除されましたが、これまでの制度認識と制度運用が法律に照らして間違っていたことを区はまだ認めていません。
杉並区は長年、法律違反の制度運用を続けてきたことを率直に認め、Aさんをはじめとする、誤った制度運用によって尊厳を傷つけられた全ての人に謝罪すべきです。

引き続き、杉並区の生活保護行政の改善に向けて、ご協力をお願いいたします。

2月4日に私たちが杉並区に申入れをおこなって以降、扶養照会に関して東京都や厚生労働省でさまざまな動きがありました。ホームページの改訂には都や国の動きが影響していると考えられます。


以下に参考と記録のため、都と国の動きをまとめます。

残念ながら、扶養照会については杉並区以外にも法律や厚生労働省の通知に従わない運用を続けている自治体が存在しています。
そうした不当な対応をなくすためにも、各地で下記の東京都や厚生労働省の資料を活用していただければと願っています。

【東京都の動き】

杉並区の問題が発覚して、すぐに動いたのは東京都です。
私たちが杉並区に申し入れをした2月4日、東京都は都内の福祉事務所に事務連絡を発出しました。
そこには、「最近の申請では、申請書に付随して、要保護者が扶養照会を拒否する書面を提出するケースが見受けられます」と「申出書」に言及して、「扶養が保護適用の前提要件であるといった誤解を与えないよう」的確に説明をすること、「要保護者が扶養照会を拒否する場合は、理由を確認し、照会を一旦保留」するという、都の従来からの方針を念押ししています。

2022年2月4日に発出された東京都の事務連絡

【参考記事】生活保護の扶養照会「申請者が拒めば保留」徹底を、東京都が自治体に通知:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/162142

また東京都議会では、2月24日に西沢けいた議員(立憲民主)が「申請者の意向に反した扶養照会は、生活保護の利用をためらう要因となっています」と指摘した上で、扶養照会に関する都の方針を問う質疑をおこないました。

この質問に対して、東京都の福祉保健局長は「拒否する場合は、一旦保留」という都の方針を説明した上で、申請者から「申出書」が出された場合の取扱いについて、「扶養照会を拒否する意向が示された際は、都の通知等に基づき、福祉事務所において適切に対応されるべきものと認識しております」と回答しました。

「適切に対応されるべきもの」という都の局長の答弁は、杉並区など都の方針に従わない自治体に対して、警告をしたものだと考えられます。

2022年2月24日東京都議会議事録
https://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/proceedings/2022-1/03.html#01

4月1日に東京都は公式ホームページにおける生活保護制度の説明を改訂しました。

生活保護制度とはどのような制度ですか。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/seikatsu/hogo/seiho.html

新たなページでは「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。」と明記し、扶養照会について「『扶養義務の履行が期待できない』と判断される扶養義務者には、基本的には扶養義務者への直接の照会を行いません」と明快に説明しています。

【厚生労働省の動き】

厚生労働省も動きました。
3月18日、厚生労働省の保護課は各自治体に対して「社会・援護局関係主管課長会議資料」を送付しました。

この資料のうち、生活保護制度に関するパートのポイントは下記の通りです。

【ポイント】
・申請権の侵害はもちろん、申請権を侵害していると疑われるような行為は厳に慎むこと。
・「扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行うこと」、無料低額宿泊所への入所が条件であるかのように説明をすることはやめること。
・ホームページや「生活保護のしおり」に内容が不適切な点がないか、制度改正などが反映されていない点がないか、チェックすること。
・扶養義務の履行が期待できない親族には扶養照会をしないという点について、「保護のしおり」に記載する等、面接時に誤解を与えないようにすること。

*社会・援護局関係主管課長会議資料
ページ番号24~「5 面接時の適切な対応について」
ページ番号25~「 6 扶養照会に係る留意事項について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000908524.pdf

ここで「ホームページ」という文言がわざわざ出ているのは、杉並区のホームページが問題になっていることを意識したからだと思われます。
また、「生活保護のしおり」(生活保護制度を説明するためのガイド)についての言及もありますが、これは今年1月に公表された地方議員ら(足立区のおぐら修平区議(立憲民主)を中心とするグループ)による調査結果を意識したものだと考えられます。

【参考記事】扶養照会不要なケースの説明、9割超が不十分 1都3県157自治体「生活保護のしおり」を地方議員ら調査:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/155600

【参考記事】生活保護申請を阻む「扶養照会」の壁 自治体窓口の対応は変わったか:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASQ374RW8Q31ULZU00D.html

東京以外の自治体でも動きがありました。

今年3月11日には、広島県福島市のホームページが地元の市議の指摘により変更になりました。

生活保護の「扶養照会」 福山市が説明文を修正(日本共産党福山市議会議員団)
http://www.f-jcp.com/2022/03/post-5d90.html

各地の地方議会でも扶養照会の運用改善を求める質問をする議員が増えています。こうした改善の動きが広がることを願っています。

また、3月30日付けの東京新聞には生活困窮者支援の現場で取材を続けている中村真暁記者の記事「生活保護の扶養照会、やめませんか 困窮の現場から考える」が掲載されました。

<視点>生活保護の扶養照会、やめませんか 困窮の現場から考える 社会部・中村真暁:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/168706

2021年春に厚生労働省は扶養照会の運用を改善しましたが、杉並区のような不当な対応をおこなう自治体はあとを絶ちません。
この問題を完全に解決するためにも、国レベルで扶養照会撤廃に向けた議論を始めるべきではないか、と私たちも考えています。

生活保護を利用しやすい制度にするための取り組みへのご注目、ご支援をよろしくお願いいたします。